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スマートシティの現状と課題、成功のカギは小さな成功体験の積み重ね

KPMGコンサルティングの分析と指摘

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2021年10月18日

合意形成の第一歩を確実に獲得せよ

 日本各地でも実証実験が進むスマートシティだが、事業アイデアからコンセプト立案、実証・開発という段階までは進んでも、事業化にまで至る都市は少ないのが実状だ。KPMGコンサルティング パートナーの馬場 功一 氏は、「資金調達、住民の合意、セキュリティなどの観点から、実装まで至らないケースが多い」とする。現場の実態を馬場氏は、こう話す。

 「市民、自治体、事業者のそれぞれに聞くと『リーダーシップの欠如』『ステークホルダーが多く合意形成が難しい』『持続可能なファイナンスモデルでない』など、それぞれの立場からの疑問や不安、否定的な声が聞こえてくる。なかでも問題だと考えられるのは、『行政の予算が単年度で決められており、大きな投資ができない』ということだ」

 これらの問題を一度に解決するのは難しい。そこでKPMGコンサルティングは、現状突破の手段として(1)Quick-winからスタート、(2)データに基づいた計画立案・評価、(3)デジタルPPP(Public Private Partnership)による運用という3つを提案する(図3)。

図3:KPMGコンサルティングが推すスマートシティ推進の3つのポイント

Quick-winからスタート

 市民の目に見える分野から取り組みを始め、合意形成の第一歩を確実に獲得し、支持者を増やしていく方法である。

 一例として、地方都市において公共交通機関が衰退するなか、交通難民になった高齢者を支援する乗り合い送迎サービスを挙げる。民間企業主体のサービスで、予約に応じて病院や役所、スーパーなどに送迎する。乗降場所や経路が変更できるため、利用者からは好評だという。

 この送迎サービスは、市民全体に広く提供するサービスではない。しかし、「一部の市民にとって、とても便利なサービスであることがポイントだ」と馬場氏は指摘する。

データに基づいた計画立案・評価

 公共事業など行政の投資案件に対し、データに基づく効果の予測と検証を加えることの提案である。「例えば、道路を作ると、どれぐらいの効果があるのかをAI(人工知能)などの技術で細かく予測すれば、限られた予算を何に使うかの参考にできる」(馬場氏)

デジタルPPP(Public Private Partnership)による運用

 将来の人手不足で行政サービスが立ち行かなくなることに備えるために、デジタルを活用した徹底的な効率化を、民間の力を使って進めるための枠組みだ。スマートシティでのポイントは、スマートシティを運営するSPC(特別目的会社)を作り、行政と切り離すことで事業の前進を目指すことである。

 SPCには、交通や病院など公共サービスの事業会社が出資し、自治体の補助金や事業予算、ふるさと納税の寄付金なども集約する。スマートシティにかかわる事業をSPC1社が担うことで、投資のムダをなくし効率化を図る。

 例えば東京・東村山市では、市の電力調達や電気料金の支払い業務を担うSPCを設立し、年間1000万円のコストダウンに成功している。「自治体中心の場合、年度ごとの予算の縛りや人事異動で施策が途切れることが多い。SPC中心であれば、ノウハウも予算も長期的に継続できる」(馬場氏)とする。

 馬場氏は、「スマートシティは、我々が住む町を持続可能なものにする手段だ。課題は多いが、各地域の暮らし方を加味した課題の解決に着目し、小さな成功を積み重ねることが必要だ」とした。