• News
  • 公共

スマートシティの現状と課題、成功のカギは小さな成功体験の積み重ね

KPMGコンサルティングの分析と指摘

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2021年10月18日

スマートシティへの関心が改めて高まっている。だが、都市や地域の課題を解決するためにテクノロジーを活用するという趣旨に対し、技術導入だけが話題になり、暮らしがどう便利になり、社会問題がどう解決に向かうのかが置き去りになっている感が否めない。スマートシティの定義や国内外の動き、スマートシティ構築における課題と解決策などについて、KPMGコンサルティングの専門家が報道機関向けオンライン勉強会で説明した。

 内閣府などが作成した『スマートシティガイドブック』によれば、スマートシティとは「テクノロジーを活用してサイバー空間とフィジカル空間を融合し、経済発展と社会課題の解決を両立する『Society5.0』を実現する先行実験の場」とされている。政府のスマートシティ政策は各省庁が役割を分担しながら取り組んでおり、現在全国で合計60地域、約70の実証事業が進められているという。

第3次ブームを迎えたスマートシティ

 「スマートシティ」という言葉は2000年代から登場し、現在は第3次ブームだと言われている(図1)。2000年代の第1次では再生可能エネルギーなどエネルギーマネジメント中心の都市構想だった。2010年に入ってからの第2次ブームでは、都市のビッグデータ解析によるエネルギー以外の社会問題解決を目指した。

図1:スマートシティの進展と取り巻く環境の変化

 KPMGコンサルティング シニアマネジャーの大島 良隆 氏は、スマートシティブームの変遷について、こう話す。

 「産業構造の変化で“理想の都市”作りの形が変化している。第1次ブームでは可動産を動かす米Amazon.comや中国のアリババ、第2次ブームでは不動産を扱う米Uber Technologiesや米Airbnbといった新しいプラットフォーマーが登場した。2020年代の第3次では、それらの領域を横断して社会課題を解決しようという動きが出てきている」

 社会情勢や技術の変化に伴って、スマートシティに関する国の施策も変わってきた。2020年には「スーパーシティ構想」が登場している。「スマートシティを実現する要素技術はすでに揃っている。スーパーシティは、分野を超えて大胆な規制改革に踏み込むことで、エネルギーや交通にとどまらない生活全般を対象とした『まるごと未来都市』を目指す取り組みだ」(大島氏)

 スーパーシティ構想の公募には、2021年4月までに31の自治体が手を挙げた。しかし、その内容を審査した内閣府は、「どれも大胆な規制緩和のテーマとして不適当」とし、全自治体に対し同年10月15日までの再提案を要請している。

 スマートシティ/スーパーシティに対し地域の関心が高い背景には、少子高齢化による自治体の財政悪化がある。2050年までに全国で約半数の都市が消滅する可能性があるとの予測もある。災害や感染症のリスクなど課題も増大している。「複雑化、複合化する課題に対し、テクノロジーを用いて持続可能な地域にしたい」(大島氏)というのが各地域の思惑だ。

スマートシティの市場規模は2025年に2410億ドルに

 スマートシティに関する技術と製品/サービスの市場規模は、右肩上がりで増えており、2025年に2410億ドルになるとの予測もある(図2)。分野別に最も大きいのはインフラ部門で、建築、電力、輸送などが続く。地域別には、アジアのスマートシティ市場が急成長しており、2025年には全世界の約半分を占めるという。

図2:スマートシティの市場規模予測(独Statista調べ)

 スマートシティは、既存都市を改修するブラウンフィールド型と、何もないところに一から都市を作るグリーンフィールド型に大別される。だが、実際に何に取り組んでいるかは都市ごとに分散している。「スマートシティという言葉の定義が明確でないため、取り組み分野は各都市の課題に合わせる形になり多岐にわたる」とKPMGコンサルティングのコンサルタントである河江 美里 氏は話す。

 地域別では、欧米とアジアで様相が異なる。欧米では老朽化したインフラの維持・更新、低炭素への対応、高齢化対策などが中心になっている。対してアジアでは、経済発展による急速な都市への人口集中への対策として、都市インフラのスマート化を進める動きが中心だ。

 そうした中、日本では、規模は小さいものの全国に90のコンソーシアムが作られ、ほとんどの都道府県でプロジェクトが動いている。「コンソーシアムに参加する民間企業の数は1168社が確認されている」(阿江氏)という。