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日本企業の海外進出とIT活用は8年前からどう変わったか、B-EN-Gが調査

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2022年5月13日

海外進出している日本企業の情報システムおよびデジタル技術の活用について、製造業向けERP(統合基幹業務システム)を開発・販売するビジネスエンジニアリング(B-EN-G)が調査した。2014年にも同様の調査を実施しており、この8年間で、どう変わったのかを比較している。

 ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)が実施したのは「海外進出企業の情報システム/デジタル技術活用に関する動向調査」。海外進出している日本企業が抱える情報システムやデジタル技術活用における課題を明らかにするのが目的だ。質問に共通点がある同様の調査を2014年にも実施している。

 調査対象は、海外拠点を持つ全業種の日本企業。同社顧客を中心に、共同通信デジタルとアジアの経済ニュースメディアNNAの協力で集めた。アンケートを国内本社と海外現地法人の両方に、2022年1月13日から31日までWebで実施した。調査設計と結果分析については矢野経済研究所の監修を受けている。

環境変化への対応計画の立案が経営の最重要課題に

 今回の有効回答件数は571件。海外現法の所在国はASEAN(東南アジア諸国連合)とインドが中心だった。B-EN-Gマーケティング企画本部マーケティング部部長の山下 武志 氏は、「調査の実施タイミングがウクライナ侵攻が始まる直前だったことを踏まえる必要があるもの、8年間で日本企業の意識がどう変化したかが分かる結果になっている」と説明する。

写真1:B-EN-Gマーケティング企画本部マーケティング部部長の山下 武志 氏

 8年前との比較で大きく変わった質問の1つが「現在の経営課題・業務課題」。2014年の調査と比べ、「市場環境の変化に対応した計画の立案」が前回の29.2%から46.6%に上昇した(図1)。「コスト削減」と「海外展開」は大きく減少した。

図1:「現在の経営課題・業務課題」に対する8年前からの変化

 本調査を監修した矢野経済研究所の主任研究員である小林 明子 氏は、「コロナや戦争など、ここ数年の環境変化は特に目まぐるしい。8年前と違い、変わることが常態化した状況下で、変化に対応することが企業経営の最優先課題になっている」とみる。

写真2:矢野経済研究所の主任研究員である小林 明子 氏

 一方で「海外事業にコロナの影響があったか」という質問については、「コロナの影響で海外事業を縮小する」と答えた企業は3.3%にとどまり、「拡大する」とする企業が45.7%に上る。

 これらの結果について山下氏は、「コロナ禍であっても『最低でも現状維持、可能であれば拡大させていく』という方針が読み取れる。8年間で日本企業にとって海外展開は“当たり前”になり、あえて課題と考えない企業が増えたのではないか」とみる。

 「経営・業務課題を解決するために必要なITシステムの重点項目」では、「経営情報のリアルタイムな把握」と「IoT、AIなど新しいデジタル技術の活用」の2項目が4割近い支持を得てトップだった。山下氏は、「新しい技術の取り込みが急がれる一方で、社内情報の統合など基幹システムに関わる項目への課題感は8年前と変わっていないことがうかがえる」と話す。

コロナ禍でのDX推進は海外拠点で遅れ

 「コロナ前と比較した情報システム/デジタル技術の活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展」については、55.2%の企業が「進展した」と回答した(図2)。ただし、日本本社だけでは62.6%なのに対し、海外現地法人は48.7%にとどまるなど「海外現地法人の遅れが目立っている」(山下氏)

図2:「コロナ前と比較した情報システム/デジタル技術の活用やDXの進展」に対する回答

 海外拠点が重視するIT活用のテーマは「経営情報のリアルタイムな把握」が約半数で他の項目より抜きん出ている。次いで「内部統制」「基幹システム再構築」が続くなど「ERPに通じるテーマが上位を占めている」(山下氏)

 DXの取り組み範囲に「海外拠点は含まれる」とする企業が5割を超え、「含む必要がある」と合わせれば9割近くに達する。小林氏は「予想よりも高かった」としたうえで「ただ海外ではデジタル化はグローバル戦略として考えるのが前提なだけに5割でも不十分だ」と指摘する。実際、データ活用においても「海外を含めて行っている」が5割程度あるものの、「日本のみで実施」も3割ある。

 「海外拠点のDXを強化する必要があるか」については、海外拠点が強化を望む声が、日本本社のそれよりも10ポイント以上高かった。逆に海外拠点を全社DXに組み込めないとする企業は、「日本から海外をコントロールする体制がない」「海外拠点、日本ともに人材がいない」などを、その理由に挙げる。

 今回の調査結果を踏まえて小林氏は、「日本企業のグローバル化は進展しているが、DX戦略の実行には海外拠点が置き去りにならないことが重要だ。だが、人材不足が最大の課題に挙がるように、その実行は一朝一夕にはいかない。いきなり内製化に切り替えることも難しいだけに、外部ベンダーの活用も必要だ」と話す。