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ネット専業者にリアル店舗を貸し出すサービス、ECシステムのSUPER STUDIOと三井不動産が開始

有澤 愛文(DIGITAL X 編集部)
2023年8月24日

ネット専業者がリアル店舗の出店を検討する際の支援策として、接客員が常駐するリアル店舗を1週間単位で貸し出すサービスを、EC(電子商取引)システムを提供するSUPER STUDIOと三井不動産が2023年7月15日から始めている。ネットとリアルの両店舗でのデータが取得でき、リアル店舗運営の人的資源やノウハウの不足にも対応できるという。2023年7月7日に発表した。

 EC(電子商取引)システムを提供するSUPER STUDIOと三井不動産が始めたのは、EC専門ブランドを手掛ける事業者に、リアル店舗「THE [ ] STORE(ザ・ストア)」を1週間単位で貸し出すサービス。店舗には接客スタッフが常駐し、ネット店舗とリアル店舗のデータを組み合わせて利用するためのOMO(Online Merges with Offline)の仕組みを用意する。ザ・ストアは、東京都渋谷区にある商業施設「RAYARD MIYASHITA PARK」内で2023年7月15日に開設した(写真1)。

写真1:「THE [ ] STORE(ザ・ストア)」の内観。可動式の什器や天井吊り下げ型のハンガー、2つのサイネージ、試着スペースを備えている

 ザ・ストアでは、顧客は自身のスマートフォンを使って商品を購入する。商品ごとに用意するQRコードを読み取ったうえで、ECシステム「ecforce」(SUPER STUDIO製)のカートシステム上で購入に必要な情報を入力する。商品は店頭で受け取るか、後日、配送で受け取るかを選べる(図1)。

図1:来店者がスマートフォンを使って商品に付けられたQRコードを読み取り、購入手続きをする。商品は店頭で受け取るか、自宅へ配送するかを選べる

 出店者は、ecforceで取得した購買データのほか、店内外に設置したAI(人工知能)カメラで取得する来店客の行動/視線データを利用できる。店舗前の通行量や入店者数、サイネージの視認数、店舗利用者のエリア別の人流などだ。加えて、アンケートへの回答やLINE公式アカウントへの登録もうながす。

 来店客の行動/視線データなどもecforceに取り込むことで、ネット店舗のデータと統合管理し、各種顧客データを可視化したり分析したりが可能になる。例えば、リアル店舗とネット店舗の購買データの比較からは、リアル店舗開設の投資対効果を検証したり、両店舗間の相乗効果を確認したりができる。行動/視線データからは、店内の商品配置や動線の改善ができるとする。

 リアル店舗で実施したアンケート結果や、LINE公式アカウントに登録した際の情報をECサイトおよびリアル店舗の情報と紐づければ、顧客との関係強化策につなげられるという。具体例としては、(1)定期購入を促すためのLINEやメールマガジンの送付、(2)リアル店舗での購入者限定のセールの案内、(3)リアル店舗で購入しなかった顧客へのECサイトの紹介などを挙げる。

 SUPER STUDIOと三井不動産は、EC専門ブランドの事業者のリアル店舗の出店を支援する「OMOソリューション」を提供している(図2)。リアル店舗の立地提案から、店舗デザイン、店頭のオペレーション、OMOのためのインフラ設計や、クロスチャネルでの在庫/発送管理などのためのシステム連携、各種マーケティング施策の実行までをカバーする。ザ・ストアの貸し出しは、OMOソリューションの1メニューの位置付けだ。

図2:SUPER STUDIOと三井不動産が提供する「OMOソリューション」の概要

 ザ・ストアで提供するOMOの仕組みの開発では実証実験も実施した。SUPER STUDIO自身が、同社が手掛けるECブランド「GO WITH WHITE」のポップアップストアをRAYARD MIYASHITA PARKに2023年4月29日から5月7日まで出店し、リアル店舗の投資対効果を検証した。店頭への流入者数と購入者数からCVR(顧客転換率)を計ったり、店舗前の歩行人数からブランドの認知効果を可視化したりした。そこで得たノウハウやシステムの改善点を元にザ・ストアを設計しOMOの仕組みを構築したという。

 2023年5月27日~29日には、EC専門ブランドの担当者512人を対象に「EC事業者のOMOの実態と消費者の購買動向に関する調査」を実施した。同調査では、実店舗(直営店)運営の経験がない理由としては、「運営の人的リソースの不足」が27.9%で最も多く、「運営ノウハウの不足」が24.6%、「予算の確保が難しい」が21.3%で続いた。

 SUPER STUDIOによれば、これらに加えて、リアル店舗の出店では、「リアル店舗を出店する価値が分からないためにリスクが大きい」「リアル店舗の購入者は単発購入が多く、定期販売を主軸とするEC専門ブランドとは相性が悪い」などの課題がある。