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代替食品や食品ロス防止、AI/ロボットによる効率化など海外のフードテックが日本に触手

神戸で開かれたフードテックの国際カンファレンス「NEXT KITCHEN 2025」より

野々下 裕子(NOISIA:テックジャーナリスト)
2025年2月20日

食に関するテクノロジーや、そのビジネスモデルであるフードテックの国際カンファレンス「NEXT KITCHEN 2025」が2025年2月6日、神戸市内の複合施設「神戸北野ノスタ」で開催された。フードテックの最新状況に関する基調講演に続くピッチでは、日本での事業拡大を目指す海外のスタートアップ9社が登壇した。講演などの概要を紹介する。

 フードテックの国際カンファレンス「NEXT KITCHEN」は、食の領域で社会課題解決に取り組み、日本での事業拡大を目指す海外のスタートアップ企業を対象にしたビジネスマッチングプログラムである。内閣府拠点都市推進事業の一環として、京阪神スタートアップ・エコシステムのグローバル化に取り組む兵庫県と神戸市が日本貿易振興機構(JETRO)と共に実施している。

 プログラムの参加条件は、食の問題に取り組んでいることや日本での事業展開を目指していること、市場適合性やスケーラビリティがあることで、参加は無料である。2024年は11社が参加し、これまでに3件のビジネスが成立している。3期目の2025年は、神戸市内の複合施設「神戸北野ノスタ」で2月6日に開催され、世界各国の応募企業54社から選定された9社が来日した。

日本のアグリ・フードテックの資金調達額は2024年に約43億円

 基調講演にはまず、アグリ・フードテック分野のベンチャーキャピタルAgFunderで海外投資家として活動するアンジェラ・テイ氏が登壇した(写真1)。2013年設立のAgFunderの拠点は、シンガポールとシリコンバレー。2019年6月に設立したファンドでは幅広い分野のフードテックスタートアップに投資し、2024年12月時点の運用資産総額は3億ドル(約46億円)である。

写真1:ベンチャーキャピタルAgFunderのアンジェラ・テイ氏が世界のアグリ・フードテック分野の市場を解説した

 調査レポートなども発行し、世界の食品業界や農業のイノベーション推進を支援している。同社のニュースレター「AgFunder News」は約3万社のスタートアップ情報を提供し、10万人以上が購読する。

 「フードテックの世界的潮流」と題した講演でテイ氏は、日本のアグリ・フードテック市場の資金調達額は2024年に前年比58%増の2億8000万ドル(約43億円)で、アジア太平洋地域では3位に上昇したと紹介。多くは非公開のため、調達額はより大きいとも見込まれるとする。

 市場はアジア地域全体でも成長しており、特にインドの伸びが著しいという。分野としては、サスティナブル、拡張性、安全性、スマート農業、AI(人工知能)活用、そして気候変動に強い食品への投資が見込まれている。テイ氏は、「サーキュラーエコノミーやクロスボーダーでの協業も増える中、日本が得意とする技術により、さらに世界で成長できるだろう」とアドバイスする。

 続いて農林水産省 食品産業部 新事業・国際グループの長田 裕貴氏が登壇し、「国内におけるフードテックをめぐる状況」について講演した(写真2)。気候変動やSDGsへの関心の高まりなどを背景に世界でフードテックビジネス創出の動きが強まる中、日本では持続可能な食料供給や生産性向上、“豊かで健康な食生活”をテーマにしたフードテックが、新ビジネスとしての期待が高まっているという。

写真2:農林水産省の長田 裕貴 氏は国内のフードテック支援活動を紹介した

 政府としては「フードテック推進ビジョン」を掲げ、5年前にフードテック官民協議会を立ち上げている。個人が無料参加でき、オンラインを含む報告会などを年3回、開催するほか、食生活イノベーションやへルス・フードテックなどをテーマに7つの作業部会や、コミュニティサークル活動なども展開する。

 2024年10月からは、神戸を皮切りに全国で地域セミナーを開催してもいる。3つのテーマで募集するビジネスコンテストにはビジネス部門と個人部門があり、2024年度の本選が本カンファレンスの翌日に開かれた。好評だったことから2025来年度の開催も予定しているという。

 「技術はあるがビジネスにするのが難しい」という人たちを支援する取り組みもあり、事業の半額が支援されるケースもある。長田氏は、「日本はフードテックだけでなく食文化も海外から注目されており、積極的に情報発信していく」とした。

 神戸市に本社を置くユーハイムの代表取締役社長 河本 英雄 氏も登壇し、同社が展開するバームクーヘン専用ロボット「THEO(テオ)」などを紹介した(写真3)。職人技をAI技術で再現するTHEOは5年前、「南アフリカのスラムで日本のバームクーヘンを遠隔で作るという思い付き」(河本氏)から誕生。社会貢献ロボットとして神戸市から特別住民票も発行されている。

写真3:ユーハイム代表取締役社長の河本 英雄氏は自社開発するAI菓子職人ロボット「THEO」とそのビジネスを紹介

 現在は国内で20台が稼働する。2025年4月から始まる大阪・関西万博にも参加する予定で、50台にまで増やす予定だ。万博では「AI技術を最大限に活かしバームクーヘンの食べ放題を提供する」(河本氏)。万博後は神戸市内に出店し、日本マイクロソフトが神戸市で展開する「MicrosoftAIラボ」との協業で、技術をさらに高めたい考えだ。

 河本氏は、菓子職人のレシピを音楽に見立て、著作権を守りながらクラウドで共有する「レシピバンク」構想も提案している。「意外かもしれないがレシピを広く知ってほしいと言う職人は多い。AIロボットで、いつでも・どこでもベストの味を再現できれば、多くの人たちを幸せにできる」(同)という。