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自社専用AIエージェントの開発・運用環境のマネージドサービス、日立製作所が販売

DIGITAL X 編集部
2025年4月4日

熟練者のノウハウを取り込んだ自社専用のAIエージェントを開発・運用するためのマネージドサービスを日立製作所が2025年3月31日に発売した。2025年6月30日から提供する。社会インフラなどを支える現場で働くスタッフを主な利用者とするAIエージェントを想定し、人手不足や技能継承などの課題解決につなげる。2025年3月26日に発表した。

 日立製作所の「AIエージェント開発・運用・環境提供サービス」は、社内の特定業務に特化したAI(人工知能)エージェントの開発・運用環境のマネージドサービス(図1)。建設、輸送、電力、ガス、鉄道といった社会インフラを支える現場のエンジニアなどが利用するAIエージェントの開発を主な対象に、熟練者のノウハウをAIモデルに学習させ、人手不足や技能継承などの課題解決につなげる。「生成AI活用プロフェッショナルサービスpowered by Lumada」の1メニューに位置付ける。

図1:日立製作所の「AIエージェント開発・運用・環境提供サービス」の概要

 AIエージェントの開発時はまず、日立が「GenAI Professional」と呼ぶ生成AI技術の専門家が、エスノグラフィー(行動観察調査)やAIインタビューなどの手法により、熟練者が持つ業務経験から得た直感や判断基準を引き出す。企業に固有の設備図面や保全記録なども、補正しながら学習データやRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を構築し、必要な回答精度を得られるよう支援する。

 AIエージェントの開発・実行環境には、自然言語処理のアプリケーション開発のための「LangGraph」やノーコード開発基盤の「Dify」などを利用できる。AIエージェントの適用業務や適用範囲などに合わせて、パブリッククラウド上で小規模に導入・検証したり、プライベートクラウド上でデータの機密性を高めたりもできるとしている。

 本サービスを用いたAIエージェントのひな形として「保守問い合わせAIエージェント」を提供する。同社が持つOT(Operational Technology:制御・運用技術)ナレッジの抽出手法などを使って熟練者の知識を取り込んでいるという。問い合わせ内容から適切な担当者への自動配信や、問い合わせ内容を深掘りした必要な情報の収集などができる。これら機能をカスタマイズすれば、各社のニーズに合わせた問い合わせ業務に利用できる。

 サービス提供にあたり、日立ビルシステムと日立パワーソリューションズが実践を通して蓄積してきた問い合わせ業務に固有の情報取得・抽出ノウハウを、AIエージェントのための中核技術として取り込んだ。

 日立ビルシステムは、エレベーターの施工現場において管理者からの問い合わせに回答するエンジニアを支援するAIアプリケーションを開発した(図2)。施工現場では毎月約100件の問い合わせが発生し、それへの平均対応時間は1件当たり約30分がかかっている。AIアプリにより、問い合わせ内容に対し約80%の精度で瞬時に関連情報を抽出でき、問い合わせ対応にかかる時間と工数を削減し、エレベーターの施工作業自体も効率がたかまっているという。

図2:日立ビルシステムにおけるAI技術を使った技能継承の取り組み例

 日立パワーソリューションズでは、客先にある各種制御システムに障害が発生した際の対応依頼を受ける保守受付担当を支援するAIシステムを開発した(図3)。障害内容に応じて必要な情報抽出を支援し、対応依頼の受付時の初動判断が迅速になり、業務効率の約30%の向上を見込んでいる。

図3:日立パワーソリューションズにおけるAI技術を使った技能継承の取り組み例

 日立は今後も、社内外において業務特化型AIの活用を促進し、そこで得た技術やノウハウをサービスに落とし込んで提供していくとする。

 日立によれば、労働人口減少により、社会インフラを支える現場での労働力不足が深刻化している。経験に基づく勘やコツなどの暗黙知が多く、熟練者依存が進んでいる。一方で、万一の障害発生時には迅速な復旧が求められ、現場への業務負担が増加している。

 その解決策としてAI技術の活用への期待が高まっているものの、熟練者の暗黙知を形式知に紐づけることが難しく、現場へのAI技術の適用が進みにくい状況になっている。