2025年の新興テクノロジー・トップ10、世界経済フォーラムが発表

DIGITAL X 編集部
2025年7月1日

2025年の『新興テクノロジー・トップ10』を世界経済フォーラムが2025年6月24日(中国時間)に発表した。今後5年以内に、社会課題の解決に向けて利用が拡大し、社会的な利益をもたらすと予想する。2025年版は13回目の発行になる。

 世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)の『新興テクノロジー・トップ10』は、ビジネスリーダーらが科学技術の変化に対応する際に求められる「信頼できる将来展望」(WEF)を提供するためのレポート。科学者や研究者、未来学者らの専門知識を元に「今後5年以内に拡大し、広範かつ社会的な利益をもたらす」(同)と予想される10のイノベーションを挙げる。

 同レポートが対象にするテクノロジーは、科学的な進歩と現実世界の応用が交わる“転換点”にあるもの。評価軸として、新規性、成熟度、社会に意味のある利益をもたらす可能性を設定し、イノベーションとレジリエンス(回復力)の両面での進展を反映させている。

 10のイノベーションは、3~5年以内に実社会に影響を与え、混雑や、汚染、病気、気候ストレスなどのリスクに対処するとされ、そこには(1)コネクテッド・ワールドにおける信頼と安全、(2)健康のための次世代バイオテクノロジー、(3)持続可能な産業の再設計、(4)エネルギーとマテリアルの統合の4つの主要トレンドがあるとする。各トレンドの新興テクノロジーとして以下を挙げる。

トレンド1:コネクテッド・ワールドにおける信頼と安全

(1)協調センシング :センサー群がネットワークでつながり、車両や都市、緊急サービスが情報をリアルタイムに共有することで、安全性が高まり、交通量が減少し、危機への対応が迅速化される

(2)AI(人工知能)生成コンテンツを識別する電子透かし :AIが生成するコンテンツに目に見えないタグを追加し区別を容易にする。誤情報の拡散防止や、オンライン上の信頼保護に役立つ可能性がある

トレンド2:持続可能な産業の再設計

(3)グリーン窒素固定 :化石燃料ではなく電気を使って肥料を製造することで、汚染とCO2排出量を削減できる。より持続可能な食料生産が可能になる

(4)ナノザイム :天然の酵素のように機能する、より強力で安価かつ使用が容易な人工酵素。医療検査の精度向上、汚染の除去、安全な製造に向けた支援などに役立つ可能性がある

トレンド3:健康のための次世代バイオテクノロジー

(5)人工生体治療 :慎重に設計された有益な細菌を用いて体内に治療薬を届ける新たな治療法。長期療養コストの削減と効果の向上が期待される

(6)GLP-1の神経変性疾患に対する効果 :糖尿病や体重減少に用いられていた薬剤に、アルツハイマー病やパーキンソン病の進行を遅らせる可能性があり、選択肢が限られている治療分野に新たな希望をもたらす可能性がある

(7)自律型生化学センシング :ケーブルも人間の監視もなしに、24時間体制で健康状態や環境の変化を監視できる小型かつスマートなセンサー。環境汚染や疾患の早期発見に役立ち、時間と命を救う可能性がある

トレンド4:エネルギーとマテリアルの統合

(8)構造電池複合材料 :エネルギーの貯蔵と同時に重量を支えられる材料。EV(電気自動車)を軽量かつ高効率にすることで、CO2排出量の削減と性能の向上を実現する

(9)浸透圧発電システム :塩水と淡水の浸透圧の差を利用してエネルギーを回収しクリーンな電力を生成する。沿岸地域における環境への影響が少ない安定した電力源として有望

(10)先進原子力技術 :小型原子炉と代替冷却システムは、安全かつ低コストなクリーンエネルギーを提供する。電気化とAI技術の進展に伴い、エネルギー需要が増加する中、信頼性が高く、CO2排出量ゼロの電力システム構築に重要な役割を果たす可能性がある

 2025年のトップ10は、過去のテーマを基に、健康、持続可能性、都市のレジリエンスを引き続き最優先課題にしている。これらの分野での緊急性の高い課題に対し、協調センシングや自律型生化学センシング、グリーン窒素固定などのテクノロジーは、継続的にイノベーションが進展しており、慢性疾患や環境インパクト、インフラへの負荷に対し拡張可能な解決策の開発につながる勢いが拡大しているとする。

 これらテクノロジーの大規模展開に向けて本レポートは、投資やインフラ、基準、責任あるガバナンスを明確にし、各国政府や企業、科学コミュニティが連携し、その開発を公共の利益に資するものとするよう呼びかけている。