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世界経済フォーラムが「ライトハウス」認定に13拠点を追加、日本は2020年以降に認定なし
世界経済フォーラムはデジタル技術を活用している製造拠点を認定する「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」で、新たに13拠点を認定した。認定数は合計で201拠点になったが、日本では2020年以降、新たな認定はなされていない。2025年9月16日(スイス時間)に発表した。
世界経済フォーラムの「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」は、デジタル技術を使って成果をあげている製造拠点の認定制度。顧客中心主義、生産性、サプライチェーンのレジリエンス、持続可能性、人材育成の領域での成果を評価しており、31カ国35セクターが参加する。
このほど、新たに13の拠点を認定した(表1)。うち7拠点を中国勢が占める。これら13拠点全体では労働生産性が40%向上し、リードタイムは48%削減したとする。前年に比べAI(人工知能)/生成AIの利用例が増えてり、その実装効果として、製品不良率の41%削減、エネルギー消費量の28%削減、サイクルタイムの44%削減が確認できたとしている。
領域 | 会社名 | 所在地 | 実施内容 | 効果 |
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顧客中心主義 | イートン・エレクトリカル・エクイップメント | 中国・常 | 在庫管理単位(SKU)16万4000点、新規カスタム設計が年間5000点以上という製品管理にデジタル技術を導入。AI(人工知能)、シミュレーション、ロボット、生成AI、デジタルツインなどの技術を活用し対応力を強化した | 従業員増なしでリードタイム39%短縮、業務効率50%向上、収益を129%高めた |
メトラー・トレド・インターナショナル | 中国・常州 | 個別化ニーズに対応するため、AI技術による製品構成高速化や機械学習を活用した品質維持など49の第四次産業革命ユースケースを導入した。 | 納期遵守率を98.4%、リードタイムを22%短縮、ネットプロモータースコアを84.9にした | |
生産性 | グローバルファウンドリーズ | シンガポール | 人材不足と需要急増に対応するため60件以上の第四次産業革命ユースケースを導入。AIベンダーや大学と連携し、機械学習ベースの予知保全や品質管理、遠隔サポート、ワークフローのデジタル化を進めた | 労働生産性を40%向上し、新製品導入における試作期間を30%短縮した |
ハイアール・ウォッシング・エレクトリカル・アプライアンシズ | 中国・上海 | ハイエンド市場の需要に応えるため、自社開発のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)基盤や生成AI技術を活用した3D(3次元)モデリング、深層学習などの先進技術を活用した | 生産量を37%増加させ、納品効率を40%向上、転換コストを33%削減した | |
カタール・シェルGTL | カタール・ラスラファン | 世界最大級のGTLプラントで、資産健全性の課題に対応。構造健全性を実現するAI技術など、45以上の第四次産業革命ツールを導入した | 5年間で処理能力9%向上、信頼性99%改善、排出量7%削減、設備寿命を最大50%延長した | |
トンウェイ・ソーラー | 中国・眉山 | 太陽電池における電力変換効率(PCE)と品質向上のため、機械学習によるプロセス最適化や生成AI技術によるメンテナンスなど50以上の第四次産業革命ユースケースを展開した | 電力変換効率12%向上、欠陥率41%削減、変換コスト37%削減、CO2排出量を33%削減した | |
サプライチェーン | レノボ・セントロ・テクノロヒコ | メキシコ・モンテレイ | 北米最大の拠点として、2000社の海外サプライヤーと5万2000SKUを管理しており、AI及び生成AIを活用した60以上の第四次産業革命ツールを導入し、複雑なサプライチェーン管理と品質向上に対応した | リードタイム85%、物流コスト42%、品質損失56%、CO2排出量30%を削減し、生産性を58%高めた |
ミデア・リフリ-ジレーション・エクイップメント | タイ・シーラチャ | 複雑な越境サプライチェーンや品質問題に対処するため、クローズドループ品質システムや生成AI人材育成を含む、72のデジタル・AIツールを導入した | 受注リードタイムを43%短縮し、顧客クレームが32%減少。従業員の資格取得速度も62%向上した | |
トルコ・ペトラル・リファイナリー(TUPRS) | トルコ・イズミット | 原油多様化や製品の複雑化、桟橋混雑などの課題に対し、バリューチェーン全体の計画・在庫・物流を統合するため、AI予測などを導入した | 納品信頼性が95%に向上、トラック積載時間75%短縮、予測業務の労働生産性48%向上、CO2排出量8%削減などにつなげた | |
ユンナン・バイヤオ・グループ | 中国・昆明 | 主要生薬原料の品質ばらつきと栽培地域の分散化に対応。衛星センシング、産業用IoT、大規模言語モデルなど40以上の第四次産業革命ツールを導入した | 原料返品率78%減、在庫日数38%短縮、欠品率30%削減を実現し、安定かつ迅速な供給体制を確立した | |
持続可能性 | ハイセンス日立エアコンディショニング・システムズ | 中国・青島 | 製品ライフサイクル全体にわたる排出量削減のため、顧客サイトにおける環境パラメータの最適制御などの27の第四次産業革命ツールを導入。IoTと高度な分析技術で排出量削減に取り組んだ | 冷媒漏洩を56%削減、スコープ1・2排出量を48%削減、製品使用に伴うスコープ3排出量を28%削減した |
シュナイダーエレクトリック国際配送センター | フランス・エブルー | 拠点を初の循環型流通センターへ転換。デジタル顧客基盤や製品と修理、再生、再包装を連携するためのデータモデル、循環型ツールなどを導入した | 使い捨てプラスチックを40%、エネルギー消費量を18%削減した | |
人材育成 | ハイアール・リフリジレーター・マニュファクチャリング | 中国・重慶 | 若い労働者の高い流動性に対応するために「人単合一」モデルを適用。個別化された昇進パス、ポイント制のイノベーション奨励基盤、複数時系列予測を用いたチームレベルの労働力計画など35の第四次産業革命の人材育成ツールを導入した | 離職率が40%減少し、参加率が61%に上昇した |
今回認定した13拠点について世界経済フォーラムは次の3つの傾向があると指摘する。
傾向1 :AI技術や高度な分析技術を活用し、協調的な意思決定に基づく革新的な取り組みを推進している
傾向2 :組織が高度に連携し、個々の拠点を超えてサプライチェーン全体にその影響力を拡大している
傾向3 :人材開発とネットワーク全体での持続可能性への取り組みが相乗効果を生み出し、パフォーマンス向上の新たな可能性を切り開いている
今回の認定について、グローバル・ライトハウス・ネットワークのアンバサダーであり、独シーメンス取締役 兼 デジタル・インダストリーズCEO(最高経営責任者)のセドリック・ナイケ氏は、こうコメントしている。
「かつてはコストと規模の最適化を目的としていたグローバルサプライチェーンは現在、近接性、リスク管理、レジリエンスの観点から再定義されつつある。グローバル・ライトハウス・ネットワークは『グローカリゼーション』の進む現代において、ニーズを強みに転換できる製造業の力を示している。テクノロジー、持続可能性、そして従業員のエンパワーメントに焦点を当てた新たなライトハウスは、変革がもたらす柔軟性と競争優位性を明確に証明している」
13拠点の追加で認定総数は201拠点になった。なお日本のライトハウス認定は2020年に、GEヘルスケア・ジャパン(日本、東京都日野市)、日立製作所(日本、大みか事業所)が認定されて以降、新たな認定はない。