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世界経済フォーラムが「ライトハウス」認定に13拠点を追加、日本は2020年以降に認定なし

DIGITAL X 編集部
2025年9月24日

世界経済フォーラムはデジタル技術を活用している製造拠点を認定する「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」で、新たに13拠点を認定した。認定数は合計で201拠点になったが、日本では2020年以降、新たな認定はなされていない。2025年9月16日(スイス時間)に発表した。

 世界経済フォーラムの「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」は、デジタル技術を使って成果をあげている製造拠点の認定制度。顧客中心主義、生産性、サプライチェーンのレジリエンス、持続可能性、人材育成の領域での成果を評価しており、31カ国35セクターが参加する。

 このほど、新たに13の拠点を認定した(表1)。うち7拠点を中国勢が占める。これら13拠点全体では労働生産性が40%向上し、リードタイムは48%削減したとする。前年に比べAI(人工知能)/生成AIの利用例が増えてり、その実装効果として、製品不良率の41%削減、エネルギー消費量の28%削減、サイクルタイムの44%削減が確認できたとしている。

表1:「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」が新たに認定した13拠点
領域会社名所在地実施内容効果
顧客中心主義イートン・エレクトリカル・エクイップメント中国・常在庫管理単位(SKU)16万4000点、新規カスタム設計が年間5000点以上という製品管理にデジタル技術を導入。AI(人工知能)、シミュレーション、ロボット、生成AI、デジタルツインなどの技術を活用し対応力を強化した従業員増なしでリードタイム39%短縮、業務効率50%向上、収益を129%高めた
メトラー・トレド・インターナショナル中国・常州個別化ニーズに対応するため、AI技術による製品構成高速化や機械学習を活用した品質維持など49の第四次産業革命ユースケースを導入した。納期遵守率を98.4%、リードタイムを22%短縮、ネットプロモータースコアを84.9にした
生産性グローバルファウンドリーズシンガポール人材不足と需要急増に対応するため60件以上の第四次産業革命ユースケースを導入。AIベンダーや大学と連携し、機械学習ベースの予知保全や品質管理、遠隔サポート、ワークフローのデジタル化を進めた労働生産性を40%向上し、新製品導入における試作期間を30%短縮した
ハイアール・ウォッシング・エレクトリカル・アプライアンシズ中国・上海ハイエンド市場の需要に応えるため、自社開発のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)基盤や生成AI技術を活用した3D(3次元)モデリング、深層学習などの先進技術を活用した生産量を37%増加させ、納品効率を40%向上、転換コストを33%削減した
カタール・シェルGTLカタール・ラスラファン世界最大級のGTLプラントで、資産健全性の課題に対応。構造健全性を実現するAI技術など、45以上の第四次産業革命ツールを導入した5年間で処理能力9%向上、信頼性99%改善、排出量7%削減、設備寿命を最大50%延長した
トンウェイ・ソーラー中国・眉山太陽電池における電力変換効率(PCE)と品質向上のため、機械学習によるプロセス最適化や生成AI技術によるメンテナンスなど50以上の第四次産業革命ユースケースを展開した電力変換効率12%向上、欠陥率41%削減、変換コスト37%削減、CO2排出量を33%削減した
サプライチェーンレノボ・セントロ・テクノロヒコメキシコ・モンテレイ北米最大の拠点として、2000社の海外サプライヤーと5万2000SKUを管理しており、AI及び生成AIを活用した60以上の第四次産業革命ツールを導入し、複雑なサプライチェーン管理と品質向上に対応したリードタイム85%、物流コスト42%、品質損失56%、CO2排出量30%を削減し、生産性を58%高めた
ミデア・リフリ-ジレーション・エクイップメントタイ・シーラチャ複雑な越境サプライチェーンや品質問題に対処するため、クローズドループ品質システムや生成AI人材育成を含む、72のデジタル・AIツールを導入した受注リードタイムを43%短縮し、顧客クレームが32%減少。従業員の資格取得速度も62%向上した
トルコ・ペトラル・リファイナリー(TUPRS)トルコ・イズミット原油多様化や製品の複雑化、桟橋混雑などの課題に対し、バリューチェーン全体の計画・在庫・物流を統合するため、AI予測などを導入した納品信頼性が95%に向上、トラック積載時間75%短縮、予測業務の労働生産性48%向上、CO2排出量8%削減などにつなげた
ユンナン・バイヤオ・グループ中国・昆明主要生薬原料の品質ばらつきと栽培地域の分散化に対応。衛星センシング、産業用IoT、大規模言語モデルなど40以上の第四次産業革命ツールを導入した原料返品率78%減、在庫日数38%短縮、欠品率30%削減を実現し、安定かつ迅速な供給体制を確立した
持続可能性ハイセンス日立エアコンディショニング・システムズ中国・青島製品ライフサイクル全体にわたる排出量削減のため、顧客サイトにおける環境パラメータの最適制御などの27の第四次産業革命ツールを導入。IoTと高度な分析技術で排出量削減に取り組んだ冷媒漏洩を56%削減、スコープ1・2排出量を48%削減、製品使用に伴うスコープ3排出量を28%削減した
シュナイダーエレクトリック国際配送センターフランス・エブルー拠点を初の循環型流通センターへ転換。デジタル顧客基盤や製品と修理、再生、再包装を連携するためのデータモデル、循環型ツールなどを導入した使い捨てプラスチックを40%、エネルギー消費量を18%削減した
人材育成ハイアール・リフリジレーター・マニュファクチャリング中国・重慶若い労働者の高い流動性に対応するために「人単合一」モデルを適用。個別化された昇進パス、ポイント制のイノベーション奨励基盤、複数時系列予測を用いたチームレベルの労働力計画など35の第四次産業革命の人材育成ツールを導入した離職率が40%減少し、参加率が61%に上昇した

 今回認定した13拠点について世界経済フォーラムは次の3つの傾向があると指摘する。

傾向1 :AI技術や高度な分析技術を活用し、協調的な意思決定に基づく革新的な取り組みを推進している
傾向2 :組織が高度に連携し、個々の拠点を超えてサプライチェーン全体にその影響力を拡大している
傾向3 :人材開発とネットワーク全体での持続可能性への取り組みが相乗効果を生み出し、パフォーマンス向上の新たな可能性を切り開いている

 今回の認定について、グローバル・ライトハウス・ネットワークのアンバサダーであり、独シーメンス取締役 兼 デジタル・インダストリーズCEO(最高経営責任者)のセドリック・ナイケ氏は、こうコメントしている。

 「かつてはコストと規模の最適化を目的としていたグローバルサプライチェーンは現在、近接性、リスク管理、レジリエンスの観点から再定義されつつある。グローバル・ライトハウス・ネットワークは『グローカリゼーション』の進む現代において、ニーズを強みに転換できる製造業の力を示している。テクノロジー、持続可能性、そして従業員のエンパワーメントに焦点を当てた新たなライトハウスは、変革がもたらす柔軟性と競争優位性を明確に証明している」

 13拠点の追加で認定総数は201拠点になった。なお日本のライトハウス認定は2020年に、GEヘルスケア・ジャパン(日本、東京都日野市)、日立製作所(日本、大みか事業所)が認定されて以降、新たな認定はない。