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産業用AIエージェントの開発・実行環境、ノルウェーのCogniteが日本でも公開

阿部 欽一
2025年12月9日

産業用データの統合基盤を提供するノルウェーのCogniteが、産業用AI(人工知能)エージェントの開発・実行環境を、同社イベント「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo 2025」(2025年9月)での記者発表会において初公開した。AIエージェントが業務効率と生産性とを高めるとする。

 「多くの企業がデジタルデータを保有しながらも、その情報が孤立し有効活用されていない」--。ノルウェーのCognite CEO(最高経営責任者)であるギリッシュ・リシ(Girish Rishi)氏は、技術のサイロ化とデータの断絶に警鐘を鳴らす(写真1)。

写真1:右から、ノルウェーのCognite CEO(最高経営責任者)のギリッシュ・リシ(Girish Rishi)氏、日本法人 代表取締役社長の江川 亮一 氏、創業者のジョン・マーカス・ラービック(John Markus Lervik)氏

サイロ化するデータを横断的にマッピングし産業向けデータ構造を生成

 Cogniteは産業用データ基盤「Cognite Data Fusion(CDF)」を開発・販売する。CDFを基盤に技術のサイロ化とデータの断絶を解決するために用意するのが、産業用AI(人工知能)エージェントの開発・実行環境の「Cognite Atlas AI」である。リシ氏は「データとAI技術をシームレスに連携させることで、製造業における生産性の飛躍的向上と自律型オペレーションの実現を目指す」と強調する。

 同社創業者のジョン・マーカス・ラービック(John Markus Lervik)氏はCognite Atlas AIについて「複雑にサイロ化されている産業データを、AI技術が理解できる形で統合し、シンプルにアクセスできるようにする。プラントや工場で働く人々は、データの持つ力を最大限に引き出せる」と説明する。

 Cognite Atlas AIは、複数のモジュールとエージェントで構成される。その中核を担うのが「産業ナレッジグラフ」である。時系列データや3D(3次元)モデル、文書、動画など、製造現場に散在する多種多様なデータを統一的に管理し、AI技術が利用しやすいデータ構造に変換する。独自のアーキテクチャーにより「サイロ化しているデータを横断的にマッピングし、共通化された産業向けデータ構造を生成する」(ラービック氏)という。

 具体的なエージェントとしてリシ氏は、機器のメンテナンスが必要な状況を検知し作業指示書を自動生成する「作業指示書ジェネレーター』や、工場の操業停止といった問題が発生した際に、その原因をプロアクティブに分析し対応策を推奨する「原因分析エージェント』などを挙げる。

 Cognite Atlas AIが顧客企業にもたらすビジネス価値としてラービック氏は(1)生産性の向上、(2)メンテナンス・信頼性の向上、(3)安全性・持続可能性への貢献の3つを挙げる。

 生産性は、ダウンタイムの削減や原因分析の改善、歩留まりの向上により高める。メンテナンス・信頼性は、予防保守の強化により、人間の労働時間とメンテナンスコストの削減により高める。そして安全性・持続可能性は、自律的な点検や省エネルギーの実現により実現できるという。

 Cognite日本法人の代表取締役社長である江川 亮一 氏は「プラントや工場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、しばしば現場に新たな負担を強いることがある。予兆保全のためのデータ収集や加工などが現場の疲弊を招いてしまうケースも少なくない」と指摘する。

 そこに対しCognite Atlas AIでは「情報探索や、ベテランに頼りがちな専門的な知見の抽出をAIエージェントが担うことで、現場の従業員が『自分たちの業務に役立つ』と実感できる体験を提供し、現場の業務効率を劇的に高められる」(江川氏)とする。

 リシ氏は「AIは単なる技術ではなく、人間の創造性を解き放つための強力なパートナーだ。Cognite Atlas AIを通じて日本の製造業の未来を共に創造していきたい」と力を込める。

少子高齢化が進む日本にAIエージェントは不可欠

 Cognite Atlas AIは、CDFにバンドルされるオプションの位置付けだ。サブスクリプション(サブスク)型の料金体系を採用し、保有する機器情報やセンサー情報の合算値によって決まる。「グッド」「ベター」「ベスト」の3種類のパッケージを用意する。

 日本市場での展開についてリシ氏は「日本にはAI技術の利用に適した法的枠組みがあり、AI技術への投資に有利な規制環境や、明確に定義されたビジネスニーズが存在する」と話す。そのうえで「AIエージェントは、産業界におけるスキルギャップや労働力不足などの課題解決に貢献する。少子高齢化が進む日本にとってAIエージェントは不可欠なソリューションになる」とする。

 CDFを含めた日本市場における販売戦略について江川氏は「これまではエネルギー領域、特に製油所を中心に提供してきた。今後は、化学系のプロセス型製造業に加え、自動車や電子部品メーカーなどのディスクリート型製造業にも注力していく」と話す。

 そのための日本市場特有の取り組みに「クイックスタート(QuickStart)プログラム」がある。「90日以内のカットオーバーが目標だ。日本のニーズを意識したプログラムで、日本発で世界に展開している」と江川氏は説明する。

 リシ氏によれば、日本ではCDFを30〜40社が導入して、グローバル全体でも大きな割合を占めている。江川氏は「2025年度の導入企業数を現在の2倍に増やし、グローバルの売り上げ目標の20%を達成するのが目標だ」とした。