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基幹業務のためのAIエージェントの開発・実行基盤、独SAP日本法人が説明
AI(人工知能)エージェントを組み合わせた企業情報システムのあり方としてERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)大手の独SAPは「Autonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)」を提唱している。同コンセプトを実現するための製品群について日本法人のSAPジャパンが2026年7月21日の記者説明会で説明した。
「当社が提唱する『Autonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)』とは、これまで人が中心になって進めてきた業務をAI(人工知能)エージェントが分析し自ら実行することで、人がAIエージェントの提案を踏まえて判断するような、人とAIエージェントとともに業務を進める企業のあり方だ」--。SAPジャパン APACカスタマーアドバイザリー統括本部 Business AI Japan Leadの本名 進 氏は、Autonomous Enterpriseをこう説明する(写真1)。
企業におけるAI技術の導入について本名氏は米Boston Consulting Groupの調査結果を引用し「74%の組織が実証段階にとどまり、本格展開への道筋を描けていない」とした。その要因には(1)ビジネスと業務プロセスについてのコンテキストの欠如、(2)システムやデータの分断による接続・連携の欠如、(3)AIエージェントのガバナンスと信頼性の欠如の3つがあるとする。
3つの欠如について「汎用のAIエージェントでは、渡した会計データなど特定の範囲しか参照できない。当社のAIエージェントは財務や在庫、販売、物流などのデータを横断して参照し、企業の業務プロセスやルールを理解して分析することで解決できる」(本名氏)という。
Autonomous Enterpriseの実現に向けSAPが提供するのが(1)AIエージェントの開発・実行基盤「SAP Business AI Platform」、(2)業務領域別AIエージェント群「SAP Autonomous Suite」、(3)AIエージェントを操作するためのインターフェース「Joule Work」、(4)業界固有のプロセスやデータ、規制ルールを組み込む「インダストリーAI」、(5)AIエージェントによるクラウド移行支援の5つである。
Business AI PlatformがAIエージェントとデータを統合
SAP Business AI Platformが、業務データや業務ルール、AIモデル、ガバナンスのための共通基盤になる。その上でAIエージェントが業務を実行する。人はJoule WorkをインターフェースにAIエージェントと協働する形になる。
そのためにSAP Business AI Platformは、AIエージェントの文脈理解と推論を担う「SAP Knowledge Graph」や「SAP Domain Model」、データ統合基盤の「SAP Business Data Cloud(SAP BDC)」、AIエージェント開発環境の「Joule Studio」などから構成される(図1)。
SAP Knowledge Graphは、SAP製ERPが持つ700万以上のデータ項目と業務プロセスの関係を構造化したナレッジグラフ。自然言語と業務プロセス、データを結び付け、AIエージェントが必要なデータにたどり着くための「ビジネスの地図」(本名氏)として機能するという。
SAP Domain Modelは、自然言語で操作できるAIモデルだ。SAP独自のコードやメタデータ、業務プロセス、技術文書などを学習済みで、SAPが提供する各種AIエージェントなどのベースになる。表形式の構造化データ向けには、数値データ処理用AIモデル「SAP-RPT-1.5」を、SAP以外のデータ基盤にある表形式データ向けには、買収した独Prior Labs製のAIモデル「TabPFN」を用意する。
SAP BDCは、SAPのデータと他社の業務データとを「ゼロコピー連携機能」により横断的に扱うための基盤になる。米Snowflakeと米Databricksのデータ基盤に加え今後は、米Googleの「BigQuery」、米Microsoftの「Microsoft Fabric」、米Amazon Web Servicesの「Amazon Athena」にも順次対応する予定だ。独SAPは、マスターデータ管理ソフトウェアの米Reltioと、レイクハウス基盤の米Dremioを買収してもいる。
AIエージェントのガバナンスには、IT資産管理サービス「SAP LeanIX」の機能として「SAP AI Agent Hub」を提供する。他社製を含めたAIエージェントやLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)、MCP(Model Context Protocol)サーバーをAI関連資産としてカタログ化する。リスク評価項目を定義し「検証済み」のエージェントだけを本番環境で動作させる。
AIエージェントの動作は、業務プロセス可視化ソフトウェア「SAP Signavio」の「エージェントマイニング」機能で管理する。定義済みの業務プロセスに沿って動作しているかを分析する。AIエージェントに「すべきこと」と「すべきでないこと」を教えて制御する機能も提供する。ソフトウェア管理基盤「SAP Cloud ALM」と連携すれば稼働状況や目標達成率も監視できる。
AIエージェントは、Joule Studioを使って自然言語での対話形式で開発できる。SAP Knowledge GraphやSAP Signavioなどの情報を参照することで「企業における文脈を理解した上で開発でき、一般的なバイブコーディングによるAIエージェント開発とは異なる」(本名氏)とする。
業務別AIエージェント群「Autonomous Suite」で属人化を排除
SAP Autonomous Suiteは、SAPが用意する業務別AIエージェント群である。SAPジャパン カスタマーアドバイザリー統括本部 バイスプレジデント・統括本部長の織田 新一 氏は「AI技術に明るい少数の人材に依存したAI技術の導入により発生する属人化リスクを排除するためだ」と説明する。
財務、サプライチェーン、支出管理、人事・人材管理、顧客管理の5領域に対し、業務を実行するAIエージェント「Jouleアシスタント」を用意する。個別業務を実行する複数のAIエージェント「Jouleエージェント」を指揮し、業務ワークフローを実行する。説明会時点で51のJouleアシスタントと、その配下の224のJouleエージェントの提供を予定し、今後も拡充を続けるとする(図2)。
Jouleアシスタントは従業員のロールに応じて配置する。Jouleアシスタントは、それぞれに定義したKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)やROI(Return on Investment:投資対効果)を指針に動作する。Jouleアシスタント/エージェントの行動は追跡・検証できるほか、それぞれを自作するための「Joule Studio」を用意する。他社製AIエージェントとはA2A(Agent to Agent)プロトコルで連携できる。
各種のAIエージェントは、チャット形式のJoule Workを使って利用する。指示を自然言語で入力すると、Jouleアシスタントが必要なデータやワークフローとJouleエージェントを組み合わせて作業を実行する。利用者の役割と入力された文脈に応じて、各種グラフやリストなどの画面構成をリアルタイム生成する。
これら製品群を使ったAutonomous Enterpriseへの移行支援策として、オンプレミスでERPを利用する企業に向けた「RISE with SAP」と、ERPを新規導入する企業に向けた「GROW with SAP」を用意する。RISE with SAPでは、システム分析やデータ管理、カスタムコード、設定、テスト、展開、プロジェクト管理のためのJouleアシスタントを提供し「クラウド移行にかかる工数の50%削減を目指す」(織田氏)としている。
なおAutonomous Enterpriseのための製品群は、2026年秋以降から一般提供を始める予定である。


