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“非決定論”的なAI時代の信頼は、組織のガバナンスとガードレールの設計で守る

「SAS Innovate on Tour Tokyo 2026」の基調講演より

森 英信(アンジー)
2026年8月25日

デジタルツインは顧客とその顧客を助ける

 ハリス氏は、エージェンティックAIを“単独の能力”として語ることにも注意を促す。SASが提供する分析技術は、機械学習による予測、生成AI技術による対話と説明、コンピュータービジョンによる画像・映像からのパターン検知、まだ起きていない事象や危険な事象を探索する合成データ、そして最良の結果を選ぶ最適化、などがある。

 エージェンティックAIは「種々の技術を1つの目的のために束ね、複雑なワークフローを計画し・統括する役回りを担う」とハリス氏は説明する。これらが束ねられたとき「得られるのは単に精度の高いモデルではない。事業の生きた複製、すなわちデジタルツインだ」(同)と強調する。

 一連の技術は、同社のAI基盤「SAS Viya」の上に統合する。Viyaはデータの前処理からモデルの構築、学習、AIエージェントの開発・運用をこなす基盤になる。

 SASは2025年、SAS Viyaと接続したフォトリアルな製造施設のデジタルツインを構築を実現してもいる。現在進めているのが、デンマーク最大の医療器具滅菌事業者との取り組みだ。洗浄、乾燥、包装、出荷と何十もの工程を、数千点の医療器具が1日当たり数百サイクルで流れていく現場だ。ここでのボトルネックや遅延は、病院の手術、そして人命に直結しかねない。

 SASはこの施設を「部屋のレイアウトから設置する機械、作業のワークフローも丸ごとデジタルツインにした」(ハリス氏)とする。全工程にシナリオベースの最適化を適用したところ「洗浄前にトレイを整列させる工程で滞留が起きているように見えていた現象は、実際には工程の下流にある遅れがもたらしていたと判明した」(同)という。

 同じデジタルツイン環境は、作業者が保護具を正しく着用しているかを判定する画像認識モデルの学習にも使う。そのための学習データは、すべて仮想的な合成データでまかなう。デジタルツインは、環境の最適化と、環境を汚染から守ることの両方に役立っているわけだ。ハリス氏は「重要なのは、顧客を助けることだけではない。顧客がその顧客(医療機関であれば患者)を助けるのを支える点にある」と強調する。

あらゆる技術を生き延びてきたのは人

 冒頭の問いに立ち返り、ハリス氏は「もちろん、人には価値がある。むしろ、いまこの瞬間ほど人が重要だったことはない」と力を込める。印刷機は知識の伝播を、交通は移動の範囲を、インターネットは情報と商取引の規模を、クラウドはデータと計算規模を広げてきた。そしていま「AI技術は、人間の観察と意思決定をスケールさせる番だ」(同)という。

 ただし、それは「決定的な瞬間ではあっても、ひとつの瞬間に過ぎない」ともハリス氏は言い添える。がんやアルツハイマー病の治療法、気候と海洋の安定、不正の撲滅と、未解決の課題は尽きない。

 画期的な技術は、問題を解き、社会を作り替え、やがて日常の背景に溶けていく。「昨日はインターネットであり、今日はAI技術であり、明日は別の何かだろう」とハリス氏は見通したうえで「あらゆる技術革新を生き延びてきた唯一のものは、人である」と言い切る。