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“非決定論”的なAI時代の信頼は、組織のガバナンスとガードレールの設計で守る
「SAS Innovate on Tour Tokyo 2026」の基調講演より
「AI(人工知能)技術が意思決定の一部を担うようになった時代に、いまこの瞬間ほど、『人』という重要な存在はいない」--。そう話す米SAS Institute エクゼクティブ・バイス・プレジデント兼CTO(最高技術責任者)のブライアン・ハリス(Bryan Harris)氏らが「SAS Innovate on Tour Tokyo 2026」(2026年7月22日)の基調講演に登壇。AI(人工知能)技術が生成するアウトプットをビジネスで利用可能にするには、何が正しい判断かを最初に定義し、その定義をワークフローや組織の仕組みに落とし込む「人」が不可欠になるという。
「3つの単語で問いたい。人に価値はあるのか(Will people matter?)」--。分析ツールを手掛ける米SAS エクゼクティブ・バイス・プレジデント(EVP)兼CTO(最高技術責任者)のブライアン・ハリス(Bryan Harris)氏は、基調講演の冒頭でこう切り出した(写真1)。「AI(人工知能)技術が重要になるという信念が揺らいでいるのではなく、人が重要であり続けるという信念の方こそが崩れている」というのがハリス氏の見立てだ。
基調講演の開会に立った同社 アジア太平洋担当バイス・プレジデントのウィルソン・ホー(Wilson Ho)氏は、SASが2026年に創業50周年を迎えたことを紹介した。米ノースカロライナ州立大学発の統計研究を出自とする同社は「いまや150カ国以上に顧客を抱える」(ホー氏)
SASの分析技術は「クレジットカードの不正請求を検知する仕組みや、安全性を確かめたうえで服用する医薬品の試験など、幅広い場面で稼働している。その歩みをホー氏は「これはテクノロジーの物語ではなく、人をどう支援して価値を守り続けるかに寄り添ってきた物語だ」と力を込める。
そのホー氏に迎えられたハリス氏がまず示したのは、企業が扱うデータ量の増加曲線と、それを解釈する人員の増加曲線のかい離である。データは増え続ける一方で、それを読み解く担当者の数は同じペースでは増えない。この差が「情報過多を生み、混乱と疲弊、そして機会を同時にもたらしてきた」(ハリス氏)という。
SASの50年をハリス氏は「人を技術で強化し、人間の観察と意思決定の規模を広げることで、このギャップを埋めてきた歴史だった」と強調する。そしてSASの技術を最も体現するのが「エージェンティックAI」だという。
複合エラーが静かにリスクを膨らませる
ハリス氏は、エージェンティックAIを巡る論点を3つ挙げる。
第1の論点が「複合エラー(Multiple Errors)」である。その要因をハリス氏は「企業の業務ワークフローは(1)決定論的(Deterministic)な要素、(2)非決定論的(Non-diterministic)な要素の2つで構成される」ことから説明する。
決定論的な処理は、あらかじめ定義された規則と論理に沿って動くため、同じ入力からは常に同じ出力を得る。融資審査で言えば、所得や債務、信用の要件を満たす申込者は、いつ申し込んでも承認という同じ結果に行き着く。「ルールベースのシステムが得意としてきた領域」(ハリス氏)だ。
一方の非決定論的な処理を代表するのが、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を組み込んだ処理だ。LLMは固定された規則や論理を持たず「確率的に出力を組み立てるため、同じ入力を与えても出力が揺れる」(ハリス氏)
例えば、マネーロンダリング対策のアラートに優先順位を付ける業務を挙げる。AIエージェントは、疑わしい取引の情報に加えて、顧客のプロファイルや過去の事案、調査員が残したメモを読み込む。ここからどのアラートから対応すべきかの推奨と、その理由の説明を生成する。
ところがLLMには固定的な判定ルールがないため「同じ入力(取引情報)を与えても、あるときは低リスクに、あるときは高リスクと判定してしまう余地が残る」(ハリス氏)。優先順位を誤ったアラートを追い掛ければ、銀行は本来より大幅に高いリスクを負うことになる。ハリス氏は「ワークフロー全体で精度を担保し、規模が拡大しても複合エラーを防ぐガードレールを組み込む必要がある」と強調した。
