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大企業にイノベーションは起こせるか、ブロックチェーンに取り組む当事者が明かす成功の法則

「Mirai Salon #8」より

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2018年7月11日

技術を説明するよりも体験の提供が必要

アドライトの木村 忠昭 氏(以下、木村):大企業のイノベーションは難しいと言われていますが、ブロックチェーンに関わるプロジェクトをどのように進めたのでしょうか。

:ブロックチェーンの大原則は非中央集権型であることを活用し、コミュニティと一緒になってモノを作っていくことだと考えています。そうしたコントロールできないサービスをリクルートのような大企業では実現できるイメージが持てませんでした。マネタイズの方法なども経営層に説明のしようがないので、自分でやろうと飛び出しました。

写真2: ALISの創業者でCEOの安 昌浩 氏

戸本:電力会社が、みなさんが想像している以上に保守的です。しかし今は電気事業を取り巻く環境が大きく変化し、業界自体が非常に危機感を抱いていることが幸いしたといえます。ただブロックチェーンのような技術を、いくら説明しても分かってもらえないので、実際にモノを作って体験してもらうことが必要でしょう。

 実際、ブロックチェーンを使ったスマートグリッドの話を2016年秋頃、社内でしても全く反応はありませんでした。その後、米ベンチャーが同様の仕組みを開発したこともあり、とにかく体験してもらおうと、後輩との2人で約2週間で電子決済アプリを開発しました。社内のコーヒー販売機の決済に適用したところ参画者が増えていきました。

池田:当社の研究所と事業部門は常に密に連携してはいますが、今回は研究段階にあったものを、とにかく世間に披露したことが成果物に結びついていきました。非常にラッキーだったと思います。東大の大澤教授がビジネス志向の強い方だったことも結果につながりました。

中央集権型でないことによるコントロールの考え方が課題に

木村:ブロックチェーン技術を採用することのメリットやデメリットとなどはありますか。

戸本:現在の電力事業は、発電設備を使わずにエネルギーを流通させるライフスタイルを模索する時代を迎えています。そこでのブロックチェーンは、家庭などが所有する太陽光発電パネルや充電設備といった分散型のエネルギープラットフォームの実現に新和性の高い技術になります。このことを今は経営層も認識しています。

写真3:中部電力ICT戦略室 技術経営戦略担当の戸本 裕太郎 氏

 難しい点は、ある程度の勝ちパターンが見えてくると、既得権益を守ろうとするコミュニティの出現が予想されることです。これは社内外を問いません。当社だけが良くなれば良いという仕掛けではないことを、いかに理解してもらい賛同者を増やしていくかが重要になると考えています。

池田:今はブームになっているので、共創コミュニティの実現に取り組みやすいというメリットがあります。

 デメリットは、ブロックチェーン技術は拡張性に問題があることです。今の技術では国内400万社を収納するような仕組みはできません。ノード数をどれだけ拡張できるようにするか、トランザクションの速度をどう確保するのかなど改善していかなければなりません。

:ALISでは、ALSIのポイントで食事ができたるなど「トークンエコノミー」を体現できたことと、コミュティ全体で新しい価値観をもったサービスを作る仕組みを構築できたことがメリットです。

 コントロールが効かないことがデメリットです。どうコントロールせずにうまくやっていくかの解はまだありません。これからの挑戦です。

塚田:多くのスタートアップ企業と話していて感じるのは、確信を持ってブロックチェーンを活用しているわけではなく、チャレンジの一環としてとらえていることです。ブロックチェーンでなくても良い場面も少なくないので、技術選択においては良く考えるようにアドバイスしています。