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大企業にイノベーションは起こせるか、ブロックチェーンに取り組む当事者が明かす成功の法則

「Mirai Salon #8」より

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2018年7月11日
写真1:パネルディスカッションの様子。左から、安氏、戸本氏、池田市、塚田氏、木村氏

デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現しようと日本企業によるイノベーションへの取り組みが本格化している。一方で大企業や老舗企業ではイノベーションを起こすのが難しいとの声もある。実際はどうなのか。次世代技術として注目が集まるブロックチェーンを使った新企業開発に取り組む担当者らが、どのようにイノベーションを起こしているのかについて、東京・丸の内で2018年6月6日に開かれた「Mirai Salon #8」(主催:アドライト)で議論した。

(当日のプレゼンテーションやパネルディスカッションの内容を再構成した。文中敬称略=DIGITAL X編集部)

 「Mirai Salon」は、大企業へのハンズオン支援事業とベンチャー企業のインキュベーション事業を手がけるアドライトが主催する公開イベントである。三菱地所が新丸の内ビルディング内で運営するインキュベーション施設「EGG Japan」で開いている。第8回目となる「Mirai Salon #8」のテーマは、「ブロックチェーンによる新規事業開発」である。

 登壇したのは、ソーシャルメディア「ALIS」を開発するスタートアップ企業ALISの創業者でCEOの安 昌浩 氏と、中部電力ICT戦略室 技術経営戦略担当の戸本 裕太郎 氏、富士通ネットワークソリューション事業本部サービスビジネス事業部シニアマネージャーの池田 栄次 氏、およびAWS(Amazon Web Services)ジャパン ソリューションアーキテクトの塚田 朗弘 氏の4人。モデレーターをアドライト代表取締役の木村 忠昭 氏が務めた。

ブロックチェーンが多様な用途に広がり始めている

ALISの安 昌浩 氏(以下、安):2011年にリクルートに新卒で入社した後、「ブロックチェーンを使って新しい事業を展開したい」との考えから2017年にALISを創業しました。仮想通貨を用いた資金調達策であるICO(イニシャル・コイン・オファリング)を2017年9月に実施し、約4億円が集まりました。

 現在開発しているのは、個人が記事を投稿し、それを読者みんなで評価するソーシャルメディアの「ALIS」です。“いいね”の数(評価)から記事の筆者の“信頼度”をスコア化し、それに対する報酬として「ALISトークン」を配布することで、信頼性が高い記事の投稿をうながすのが目的です。この信頼度とトークンの管理にブロックチェーン技術を利用しています。現在は、利用者限定のβ版の状態です。

中部電力の戸本 裕太郎 氏(以下、戸本):ICT戦略室で中部電力グループの技術経営戦略を担当しています。今は、ブロックチェーン技術を使ったスマートシティ構築に取り組んでいます。大きくはエネルギー流通と決済の2分野で、配電制御や調達・決済など4つのプロジェクトを推進しています。

 具体的には、送電ネットワークとブロックチェーンを融合し太陽光発電による余剰エネルギーを仮想通貨で売買する仕組みや、マンションにおけるEV(電気自動車)への充電にブロックチェーンを応用し消費電力に応じて課金したりする仕組みなどです。

富士通の池田 栄次 氏(以下、池田):異業種間のデータ流通・活用を可能にするクラウドサービス「Virtuora DX」を開発し提供を始めました。三菱地所とソフトバンクと連携し、東京・丸の内地区で発生するデータを使って新たな街づくりを目指す実証実験も実施しています。

 Virtuora DXは、富士通研究所がブロックチェーン技術を使って開発した「VPX(Virtual Private digital exchange)」という仕組みに、東京大学大学院工学系研究科の大澤 幸生 教授が考案した「データジャケット」という仕組みを組み合わせたものです。誰がいつ登録したデータで、誰に公開できるかを管理すると同時に、そのデータが何に使えるかを容易に判断できるようにすることで、データ流通を活性化するのが狙いです。

AWS(Amazon Web Services)ジャパンの塚田 朗弘 氏(以下、塚田):私の役割は、AWSが提供するブロックチェーン関連サービスがどのように使えるかを利用者に伝えることです。具体的には「Blockchainパートナーズポータル」と「Blockchainテンプレート」のサービスがあります。スタートアップ企業などの新規サービス立ち上げなども支援しており、注目されている種々のサービスの立ち上げ期から携わっています。