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シェアリングエコノミー×インバウンドは地方創生の切り札になるか(前編)

九州シェアリングサミット2018から

錦戸 陽子(インプレスR&D、タテグミ)
2018年8月8日

 宿泊施設不足を補うと期待されているのが「バケーションレンタル」という民泊の一形態である。バケーションレンタルは、部屋単位ではなく、一軒家を家主が利用しない間だけ貸し出す。

 同事業を手がけるHomeAwayは、福岡プラス1プロジェクトを推進する1社だ。福岡県内の福岡市や福津市、糸島市、佐賀県の伊万里市や唐津市、有田町といった地域で物件の獲得を進め、「ライドシェアと宿泊を組み合わせた実証実験にも取り組む」(日本支社長の木村 奈津子 氏)としている(写真3)。

写真3:HomeAway日本支社長の木村 奈津子 氏

 九州シェアリングエコノミー推進協会の森戸 裕一 氏は、「シェアリングエコノミーは既存の枠組みには収まらない新しいトレンドだ。今後の普及のためには、地域連携のほか、異業種連携や社会人と大学生といった世代連携も同時に進めたい」と強調した。

多拠点生活から考える「人口シェア」への発想転換

 地域間のシェアリングにおいては、「多拠点生活」という考え方が登場している。「21世紀の参勤交代」とも呼ばれ、都市部から地方へ向かう新しい人の流れを表している。

 多拠点生活に関心を示すのがANA。「人口の変化で故郷を持つ都市在住者が減っており、新しい地方との流動を創出する必要がある。そのために多様なシェアリングサービスの活用を検討している」(ANAホールディングス デジタルデザインラボの津田 佳明氏)のである。

 具体的には、フライトの空席と、到着地で利用する民泊や体験アクティビティー、ライドシェア、モノのシェアなどを結び付けることで、新しい旅のスタイルを提案する。多拠点生活を支援するために、「地方での居住物件を契約すれば、拠点間移動のフリーパスが付いてくるなど、利用者の移動のためのコスト負担を軽減するサービスモデルの開発が必要ではないか」と津田氏は提案する(写真4)。

写真4:ANA ホールディングス デジタルデザインラボの津田 佳明 氏(左)とシェアリングエコノミー協会の事務局長の佐別当 隆志氏

 シェアリングエコノミー協会の事務局長であるガイアックスの佐別当 隆志氏は「物質的なモノが飽和しコミュニティーが分断された世代の人たちにとっては、場所そのものよりも、人とのつながりが地域の魅力となる」と語る。そうした価値観の変化が「都市から地方への流れを作り、シェアハウスなどの新しいトレンドにもつながっている」(同)という。

 ただ佐別当氏は「人口減少が進む今でも、自治体は“囲い込み”意識が強い」と指摘する。九州内でも福岡市への集中が加速している点についても「KPI(重要業績評価指標)を『移住数』のような獲得数ではなく『送客数』にすれば地域の評価が変わる。都市部への人口集中は止められないが、関係人口の視点に立てば、人材を育て福岡市に送り出している各地を、もっと違った評価が可能になる」と発想の転換を促した。

 津田氏は、観光ツーリズムの観点からも、資産の稼働率を高め新たな経済価値を生み出すシェアリングエコノミーの本質に注目したビジネス転換が必要だと訴える。「観光の多様性という意味で九州は群を抜いて魅力がある。にもかかわらず自治体ごとのPRだけでは情報が不十分だし、二次交通の確保も課題だ。各地をつなぐことは、われわれ事業者の役割である」(津田氏)とした。