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シェアリングエコノミー×インバウンドは地方創生の切り札になるか(前編)

九州シェアリングサミット2018から

錦戸 陽子(インプレスR&D、タテグミ)
2018年8月8日

シェアリングエコノミーを地域の視点で語り合う市民向けイベント「九州シェアリングサミット」(主催:九州シェアリングエコノミー推進協会)が開かれている。第1回は5月12日に福岡市で、第2回は7月18日に熊本市でそれぞれ開かれた。第3回以降も継続して開かれる予定だ。九州シェアリングサミットの大きなテーマは、インバウンド獲得につながる「地域連携」。まずは福岡市で開かれた第1回のサミットから、議論の一部を紹介する。記事中の所属・肩書きは、いずれも開催当日時点のもの。

写真1:福岡市のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」で開催された第1回の九州シェアリングサミット。100人の定員におよそ300人が詰めかけた(写真:主催者)

 日本政府は今、シェアリングエコノミーの普及・啓発に取り組んでいる。専門知識を有する「シェアリングエコノミー伝道師」を11地域に派遣したり、事例集『シェア・ニッポン100』(平成29年度版)を公開したりすることで、認知度向上を図っている。内閣府が2018年7月25日に発表したシェアリングサービスの国内市場規模は2016年に5250億円だった。

 九州シェアリングサミット(主催:九州シェアリングエコノミー推進協会)は、このシェアリングエコノミーが九州地区の地方創生につながるかどうかを議論するための場として開かれている。特に海外から訪れる観光客らのインバウンド需要に焦点を当てている。

 福岡での第1回のセッションに登壇した、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室シェアリングエコノミー促進室の岩坪 慶哲 氏は、「シェアリングエコノミーをIT事業者による”破壊的イノベーション(デジタルディスラプター)“ととらえるか” 持続的イノベーション(ぬくもりのあるコミュニティー再生ツール)”ととらえるかによって見方が変わる。地域社会を考えたときには、後者の面に着目したい」と語る。

 そのうえで同氏は、「シェアリングエコノミーは、アマチュア人材を含むリソースを一時的に市場のメカニズムへ組み込むことができる。それだけに、人口減少社会の経済促進には欠かせない仕組みだ。社会の課題が多様化・複雑化する一方で、自治体の財政難や職員が減少するというジレンマを解決できる点で、地方創生の“切り札”になる」と話す。

インバウンド需要とバケーションレンタル

 では九州におけるインバウンドの実態はどうか。2017年の1年間に九州を訪れた外国人は、前年比32.8%増の494万人。日本の六大都市の中でも成長率が高いのが、第1回の会場になった福岡市である。

 「初回訪日時は『ゴールデンルート』と呼ばれる東京や京都などから入国する。だが2回目には福岡から入る外国人が多い」と、ベンチャー支援などを手がけるアットマークベンチャー代表の大津山 訓男 氏がデータを示すように、リピーターにとって福岡は人気の“玄関”なのだ。

 福岡市が存在感を増すなかで、九州全体としての課題は他地域への送客である。そのために九州シェアリングエコノミー推進協会は、シェアリングサービスを使って福岡市と近隣地域の連携を図る「福岡プラス1」プロジェクトを打ち出している。

 福岡プラス1をはじめ、シェアリングサービスを積極的に活用したいと考えている自治体の1つが福岡県福津市。福岡市と北九州市の間に位置する。副市長の松田 美幸 氏は、「新原・奴古墳群という世界遺産や、宮地嶽神社に向かう『ひかりの道』など観光資源が豊富な一方で、宿泊施設がないことが課題だ」と話す(写真2)。

写真2:福津市副市長の松田 美幸 氏