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「2024年問題」を契機に日本の物流品質をサプライチェーン全体で磨きをかける

「Manufacturing Japan Summit 2024」のパネルディカッションから

齋藤 公二
2024年4月17日

物流・運送業界の「2024年問題」は製造から小売りまでを含めたサプライチェーン全体の問題だ。ヤマハ発動機、尾張陸運、セイノーホールディングス、岐阜多田精機のトップらが、「Manufacturing Japan Summit 2024」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2024年2月13日)のパネルディスカッションに登壇し、課題や業界横断の取り組みなどについて意見を交わした。モデレーターはヤマハ発動機 生産技術本部 本部長の茨木 康充 氏が務めた。(文中敬称略)

茨木 康充 氏(以下、茨木) :ヤマハ発動機 生産技術本部 本部長の茨木 康充です。「2024年問題」としてドライバー不足や積載率向上などの課題があるなか、物流に限って効率化を進めても、みんなの幸せになるのかには疑問を感じています。サプライチェーンマネジメント(SCM:Supply Chain Management)において何が本当の効率化なのか。メーカーと物流それぞれの立場から、どうお考えでしょうか。

写真1:ヤマハ発動機 生産技術本部 本部長の茨木 康充 氏

効率化は全体最適で考えなければトラブルが発生する

多田 憲生 氏(以下、多田) :岐阜多田精機 代表取締役社長の多田 憲生です。当社は自動車や住宅設備のための金型を設計・製造しています。SCMにおいては、部分的なコスト効率の追求は現場とのギャップを生みやすいと考えています。

写真2:岐阜多田精機 代表取締役社長の多田 憲生 氏

 金型は成形後の樹脂の変形や強度などを考慮して設計します。ですが、金型の部品の“はめ具合”を決める嵌合(かんごう)の基準は金型メーカー各社で異なります。サプライチェーン管理の担当者は、そうした細かな違いを考慮しない傾向があります。

 結果、金型の費用だけを見て発注先を変更し、射出成形品が膨張したり強度が出なかったりというトラブルが起こっています。効率化は部分最適ではなく、全体最適で考える必要があります。

伊藤 光彦 氏(以下、伊藤) :尾張陸運 合い積みネット 共同代表 企画室の伊藤 光彦です。トヨタ車体系などの調達物流や運送を手掛けています。合い積みネットとしては、複数の荷主の荷物を1台のトラックで同時に運ぶサービスを通じて、積載率の向上に取り組んでいます。

写真3:尾張陸運 合い積みネット 共同代表 企画室の伊藤 光彦 氏

 サプライチェーン全体の最適化をゴールにすれば、ボトルネックに注目して考える必要があります。現在、営業トラックの積載率は平均38%です。ただこれは、荷物の重さと走行距離から算出した平均値です。これを重さと時間で分析してみたところ積載率は平均17%と、さらに低くなりました。

 つまり、かなりのトラックが余裕を持った状態で運送しているのです。逆に考えると、残り83%のキャパシティを有効活用できるとも言えます。事業の解像度を高くしKPI(重要業績評価指標)を変えていきたいと考えます。

河合 秀治 氏(以下、河合) :セイノーホールディングス 執行役員 ラストワンマイル推進チーム担当の河合 秀治です。当社は総合物流会社として、さまざまな輸送に携わっていますが、今、最も足りないのは“情報”だと感じています。

写真4:セイノーホールディングス 執行役員 ラストワンマイル推進チーム担当の河合 秀治 氏

 例えば、何時に荷物を届けるかには明確な理由がありません。過去に荷主から受けた「なんとなく」の経緯や慣習で決まっています。「8時でも10時でも良い」と言われ8時に届ければ「ちょっと待って」となって10時まで待つこともあり、その間は空車なわけです。集荷も同じです。空いているスペースと時間をうまくマッチングできるよう情報流をシームレスにつなぐことがポイントだと思います。

茨木 :サプライチェーンにおける情報共有のためのインフラが必要との判断からITベンダーに最適化に向けた提案を求めたりしています。ですが、どうしても領域が限定されているのです。そこで、上流から下流までをつなぐ仕組みを作ろうとするのですが、競争領域なのか協業領域なのかが議論になり取り組みが難しくなります。

 ただ、競合関係にある食品メーカーが共同配送に取り組んだり、メーカーと運送会社がシミュレーション結果をもとに議論を深めたりする事例も増えてきています。スモールスタートした先駆的な取り組みが業界標準にまで広がることを期待します。