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CXの向上には顧客に接する従業員が使う業務システムの体験価値向上が不可欠

書籍『エクスペリエンス指向のシステム開発』を日鉄ソリューションズが書いた理由

2024年7月24日

DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みにおいて抜け落ちがちな視点が「従業員体験(EX:Employee Experience)」の向上だ。DXが目指す「顧客体験(CX:Customer Experience)」の向上には、顧客に対峙する従業員の“やる気”に大きく左右されるにも関わらずである。その傾向は従業員が使用する社内業務システムでは顕著だ。そうした課題に対し、システムインテグレーターである日鉄ソリューションズでサービスデザインなどに取り組む有識者6人が『エクスペリエンス指向のシステム開発 従業員体験が顧客体験を高める』を上梓した。執筆に至った背景や、その考え方などについて聞いた。(文中敬称略)

──書籍『エクスペリエンス指向のシステム開発』では、企業情報システムの開発・運用の新たな方法論として「エクスペリエンス指向」を提唱しています。

惠島 之維(以下、惠島) :日鉄ソリューションズ(NSSOL)技術本部 システム研究開発センターの惠島 之維です。サービスデザイン研究部 BXDCグループリーダー 主務研究員としてシステムに関連するデザインを担当しています。

写真1:NSSOL 技術本部 システム研究開発センターサービスデザイン研究部 BXDCグループリーダー 主務研究員の惠島 之維 氏

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の考え方や、その取り組みが広がる中、CX(Customer Experience:顧客体験)の重要性が広く知られるようになりました。DXの本質を当社では、CXの極大化に向けて、既存組織の境界やルール、業務プロセス、各種ツールなどを多面的に見直す取り組みだと捉えています。

 その中で課題だと考えたのが、顧客に価値を提供する当事者、つまり従業員の働き方を「情報システムという仕組みで十分にバックアップできているのか」という点です。従業員には、店頭などで直接的に顧客と接する人たちだけでなく、製品/サービスの設計者や、顧客向けシステムの運用担当者など、間接的に顧客と接する人たちも含みます。

 より良い製品/サービスを提供していくために従業員には、会社のミッションに対してだけでなく顧客に対する高い貢献が求められます。その要求をクリアするためには、仕事に対する満足度や達成感も必要です。つまり、報酬だけでなく、障壁の少ない仕事環境や仕事への達成感が“やる気”につながり、ひいては顧客への提供価値を高める原動力になります。その過程で「これまでのシステムは、その求めに応えられているのか」を問えば、残念ながら“否”というのが自戒も含めた当社の考えです。

プロセス指向での“壁”を乗り越える策として

斉藤 康弘(以下、斉藤) :NSSOL 技術本部 システム研究開発センター サービスデザイン研究部長の斉藤 康弘です。上席研究員として、当社のDX事業の推進拠点である「BXDC-Beyond Experience Design Center」のセンター長も務めています。

写真2:NSSOL 技術本部 システム研究開発センター サービスデザイン研究部長 上席研究員 BXDC-Beyond Experience Design Centerセンター長の斉藤 康弘 氏

 当社は1986~1988年に前身となる組織が発足して以来、海外発の「プロセス指向」の開発方法論をいち早く取り込み、独自の標準化などを通じて企業のシステム化を支援してきました。その過程で、プロセス指向の問題点にも気づかされました。システム化を業務プロセスの効率化やルールを守るという観点で進める限り、いくら配慮しても、個々のタスクレベルではエンドユーザー、つまり従業員体験への配慮が抜け落ちることが多々あったのです。この状況は、CXを高めるためのDXを推進することにおいて、決して望ましくはありません。

 そうした課題感に基づき、これからのシステム開発で目指すべき考え方であり方法論として提唱したのが、エクスペリエンス指向です。約10年前に、未知の問題に対する最適な解決策を探る手法として「デザイン思考」に着目したことを発端にSI(システムインテグレーション)への活用研究を進め、具現化してきました。

 以後、エンドユーザーの“幸せ”に資するシステム開発をテーマに、社内にSI向けデザイン部門「BXDC」を立ち上げたり、社内の有志活動である「NSSOLアカデミー」内でワーキンググループを設けたりしながら今に至ります。エクスペリエンス指向を是非とも広く知っていただき、日本企業の競争力の底上げに寄与できればと考えています。

惠島 :エクスペリエンス指向が目指すのは、あらゆる従業員が仕事の開始から終了まで、雑事などに煩わされず、ストレスなく持続的に集中して業務を遂行できる環境作りです。デジタルで“快適さ”というと、とかくUI(User Interface)の話になりがちですが、決して、そこだけではありません。業務シーンごとの最適なデバイスの使い分けは当然として、あえてアナログによる情報伝達を採用することも状況によっては選択肢になり得ます。

『エクスペリエンス指向のシステム開発 従業員体験が顧客体験を高める』

著者:NSSOLアカデミー・サービスデザインワーキンググループ

サイズ:A5判

ページ数:176ページ

価格:1980円(本体 1800円+税10%)

ISBN:9784295019053

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