• Talk
  • 製造

データ活用阻む組織の壁は現場の成功事例と意欲ある若手と上司のバックアップで崩す

「Manufacturing CIO Japan Summit 2025」パネルディスカッションより

野々下 裕子(NOISIA:テックジャーナリスト)
2025年11月13日

デジタル技術を導入しても組織が動かなければDX(デジタルトランスフォーメーション)は進まない。ダイハツ工業、東洋紡、住友ゴム工業、日本ガイシのDX推進者が「Manufacturing CIO Japan Summit 2025」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2025年9月11日)のパネルディスカッションに登壇し、データ活用の課題や変革を担う組織と人材育成などについて、各社の実践例を交えながら意見交換した。モデレーターはカシオ計算機 デジタルイノベーション本部長の虻川 勝彦 氏が務めた。(文中敬称略)

虻川 勝彦(以下、虻川) :カシオ計算機 デジタルイノベーション本部長の虻川 勝彦です。私は大手のインテグレーターや鉄道会社を経て、カシオグループのデジタル化に関する業務に取り組んでいます。

写真1:カシオ計算機 デジタルイノベーション本部長 虻川 勝彦氏

 DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みにより企業の価値向上やビジネスモデルの変化を強く意識していく中、現場では日々の業務の効率化や安全・確実なオペレーションが必要です。IT部門も既存システムの安定性や情報セキュリティを軸に考える必要があります。優先順位の違いや変革の進捗度の異なりから、ねじれやばらつき、組織としてのDXが進まないという話をよく聞きますが、パネラーの皆さんは、どのように進められているのか、成功例や失敗体験などを含めて、うかがいたいと思います。

 まずは、皆さんのDXへの立ち位置と取り組み状況などを教えてください。

デジタルの活用と人材育成を並行して進める

太古 無限(以下、太古) :ダイハツ工業 DX推進室 デジタル変革グループ長 兼 東京LABOシニアデータサイエンティスト 兼 DX戦略担当の太古 無限です。私自身は、社内のデジタル推進や社外コミュニティを作るといった活動が、社外でも少しずつ認められるようになりました。先頃は「Forbes Japan CIO Award 2024-25」のチェンジレガシー賞を受賞しました。

写真2:ダイハツ工業 DX推進室 デジタル変革グループ長 兼 東京LABOシニアデータサイエンティスト 兼 DX戦略担当 太古 無限 氏

 ダイハツ工業は軽自動車やコンパクトカーを中心とした自動車メーカーですが、今は全社でデジタル全般の活用や教育に向けて動いています。最近はAI(人工知能)技術やBI(Business Intelligence)全般の取り組みを進めています。

矢吹 哲朗(以下、矢吹) :東洋紡 TX・業務革新総括部 執行役員 CDO(最高デジタル責任者)の矢吹 哲朗です。当社は渋沢 栄一による創業から140年以上が経ち、歴史の長さが良くも悪く課題になっています。DXに関しては、現社長の竹内 郁夫が役員だった2020年に検討を始め、私が入社した2022年に2030年に向けたロードマップを策定し、Business Innovationを加速・推進するIT環境の整備を進めてきました。

写真3:東洋紡 TX・業務革新総括部 執行役員 CDO 矢吹 哲朗 氏

 現在は「TX(Toyobo Transformation)」と名付けた経営改革に取り組んでいます。その核は「付加価値革命」であり、役員から従業員までの全員が、それぞれの立場で正しくスピーディーに状況を把握し判断・行動することで、業務の質とスピード、生産性の向上を図ります。

 例えば、データ活用では、日々進歩するAI技術を追いかける前に、まずは社内のデータを使える状況にするのが本当の競争力をもたらすと考えています。現場にも「皆さんが生み出しているデータの全てが会社の今後につながる」と話し、当事者意識を持ってもらえるよう働きかけています。

金子 秀一(以下、金子) :住友ゴム工業 デジタル企画部 課長の金子 秀一です。住友ゴムは「ダンロップ(DUNLOP)」「ファルケン(FALKEN)」といったブランドでのタイヤ生産や「ゼクシオ(XXIO)」「スリクソン(SRIXON)」といったブランドでのゴルフ製品を扱っています。

写真4:住友ゴム工業 デジタル企画部 課長 金子 秀一 氏

 私自身は「IE(Industrial Engineering)」として中途入社し、工場の生産性を改善する活動に従事してきました。現在はデジタル企画部、経営企画部、製造IoT(Internet of Things:モノのインターネット)推進室の3部署に所属し、全社のDX推進、特にデータやAI技術に関して、社内の人材育成を含めた活動を進めています。

齊藤 隆雄(以下、齊藤) :日本ガイシ デジタル変革推進部長の齊藤 隆雄 です。データ分析・活用人材を社内で育てる「NGKデータサイエンスアカデミー」の責任者を兼任しています。

写真5:日本ガイシ デジタル変革推進部長 齊藤 隆雄 氏

 入社した2001年からはセラミックスに関する生産技術を開発してきました。2010年から工場のIoT化に関わり、グローバルでデータ活用を推進しています。工場でデータを取るようになり、使える形に整備するまで8年ぐらいかかり苦労しましたが、現在は、それを使える人を増やしているところです。