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損保ジャパン日本興亜、眠気の予知に向けたAIの研究開発を推進

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2017年9月27日

損害保険ジャパン日本興亜(以下、損保ジャパン日本興亜)は、運転中のドライバーが眠気を催しているかどうかをドライバーの生体情報などから予知するための研究開発を進めている。同技術をコアに各種デバイスや自動車などをメーカーと連携し、データに基づいた新たなサービスを開発するのが狙いだ。

 損保ジャパン日本興亜が研究開発を進めているのは、ドライバーの眠気を予知するためのAI(人工知能)。ドライブレコーダーの画像とドライバーが装着するウェアラブルデバイスから得られる脈拍数からの予知を目指す。

 2017年6月〜9月に実施した第1段階の実験では、100台100人のタクシーを対象に、ドライブレコーダーで撮影したドライバーの運転中の画像を撮影。その画像とウェアラブルデバイスで得た生体情報を突き合わせてきた。結果、「その時、眠かったということは分かるようになった」(損保ジャパン日本興亜経営企画部企画グループの手銭 健太 課長)という。今後は、精度をより高めながら、画像と生体情報からの眠気予知に取り組む計画だ。

 研究開発は、タクシー/バス事業などを手がける第一交通産業、およびアクセンチュアとインテルとの共同で取り組む。第一産業交通がドライバーの運転状況といったデータを提供。インテル製プロセサを搭載するゲートウェア/エッジサーバー上で乗客の顔のデータなどを消す前処理を実施し、アクセンチュアのクラウドに送り分析する(図1)。

図1:眠気を予知するために損害保険ジャパン日本興亜らが構築した実験環境(プレスリリースより)

 生体情報の取得には米ガーミン製のウェアラブルデバイスを、画像撮影には市販されている一般的なドライブレコーダーを、それぞれ採用した。「汎用化した安価な製品の装着率は伸びており、そうした機器からのデータを活用できる方がよい」(手銭課長)との考えだ。一方で、出庫から帰庫までの運転画像データは容量が大きくネットワークで送るには時間がかかるため、実験ではSDカードを媒体にカードリーダーで読み出す仕組みにしている。

走行データによる安全運転支援や保険料金割引は実施済み

 損保ジャパン日本興亜はこれまで、法人向けの安全運転支援サービス「スマイリングロード」を2015年2月に、個人向けの安全運転支援機能付きのカーナビソフト「ポータブルスマイリングロード」を2016年10月にそれぞれ提供を始めるなど、安全運転に向けたビッグデータ活用に取り組んできた。スマイリングロードでは走行データからドライバー1人ひとりに運転状況をフィードバック。ポータブルスマイリングロードでは、事故多発地点を知らせるなどしてきた。

 さらに2017年8月には、自動車保険に「安全運転割引」を導入。スマートフォンアプリで取得した一定期間以上の走行データから、各ドライバーの安全運転度を算出し、その度合いに応じて保険料金を最大20%割り引く。

 眠気予知のAI開発は、その延長線上に位置付ける。手銭課長によれば、国土交通省が運輸事業者に求めた「運輸安全マネジメント制度」により自動車事故の件数や死傷者数は減少しているものの「ドライバーの健康状態に起因する事故の件数は増加傾向にある」。これまでが車から得られる走行データに基づくものだったの対し今後は、ドライバーから得られるデータを加味することで、「事故を予防できる仕組みを確立し、安全・安心な運転環境の実現に寄与したい」(手銭課長)考えだ。

 そのために損保ジャパン日本興亜は、自動車メーカーや、生体情報を取得できるデバイスメーカー、スマホアプリのベンダーなどとの連携にも期待する。開発中のAIと、自動車メーカーが持つカーナビ情報や脈拍数以外の生体情報などを組み合わせれば、「より総合的な危険予測が可能になる」(手銭課長)からである。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名損害保険ジャパン日本興亜
業種保険
地域東京/福岡
課題ドライバーの健康状態に起因する事故の増加
解決の仕組み脈拍数と運転状況の画像から“眠気”を予知することで、脇見運転や居眠り運転になる前にドライバーに知らせたり自動停止させたりできるようする
推進母体/体制タクシー/バス事業などを手がける第一交通産業が持つ実データを活用。インテル製プロセサを搭載するゲートウェア/エッジサーバーでデータを集約し、アクセンチュアのクラウド上で分析する。
活用しているデータドライバーの脈拍数と運転中の画像
採用している製品/サービス/技術米ガーミン製ウェアラブルデバイス、市販のドライブレコーダー、インテルプロセサ搭載のゲートウェイ/エッジコンピューター、アクセンチュアのクラウド
稼働時期2017年6月