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シンガポール海事港湾庁、港での船舶の交通マネジメントに向けた実証実験を富士通らと開始

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2018年4月18日
写真:多数のコンテナ船などが往来するシンガポール港

シンガポール海事港湾庁(MPA:Maritime and Port Authority of Singapore)が、シンガポール港における船舶の交通マネジメントに向けた実証実験を開始した。富士通と、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR:Agency for Science, Technology and Research)が持つInstitute of High Performance Computing(IHPC)およびシンガポールマネジメント大学(SMU)と共同で実施する。交通量が多いマラッカ・シンガポール海峡の安全性の確保が目的だ。富士通が2018年4月16日に発表した。

 シンガポール海事港湾庁(MPA)が管轄するシンガポール港とその水域は、海上貿易が盛んで往来する船舶の数が多い。MPAによれば、シンガポール港には常に約1000隻の船舶が入港しており、2~3分に1隻がシンガポール港を離発着している。

 今回の共同実証では、AI(人工知能)とビッグデータ解析などの技術を持ち寄り、船舶の交通をマネジメントする技術を研究開発し、交通データに基づく海上での渋滞や、衝突などのリスクが高いホットスポットを予測できるようにする。

 実験参加者の役割は次の通り。富士通は、データ解析技術とAI技術を使い、リスクおよびホットスポットの算出モデルを提供する。種々のリスクモデルを統合し、船舶同士のニアミスのリスクを定量化したり、時空間データ解析によって常に変化する海上リスクのホットスポットを検出したりする。

 IHPCは、「エージェント・ベース・モデリング」と呼ぶシミュレーション手法に基づく予測モデルを提供する。機械学習(Machine Learning)と運動物理学を使って、過去の船舶データから、船舶の型の違いによる交通パターンに基づいて海上の交通状況を予測する。

 SMUは、「大規模マルチエージェント最適化モデリング」の知見を提供する。自律的に動作している多数のエージェント間の相互作用をシミュレーションすることで最適な解決策を求めるためのモデリング技術を使い、海上での事故やニアミスを防止するための迂回ルートを導出したり、リスクが高いホットスポットを減らすために船舶の航行タイミングを調整したりする。マルチエージェント技術は、ドローンや無人の陸上車両の運行調整などに利用されてきたという。

 各者の技術・知見を組泡得ることで、たとえば、ニアミスが起こる10分前にリスクを検出したり、リスクが高まっているホットスポットを30分前に予測し、未然に衝突などのリスクを軽減したりが可能になるとしている。MPAは、実際の港湾内の船舶航行データを提供する。

 MPAは最近、シンガポール港内の安全性向上策の一環として「Sea Transport Industry Transformation Map」を導入した。今回の実証実験も、こうした取り組みの一部であり、研究成果は「MPA Living Lab」で検証する。

 なお富士通とA*STAR、SMUは2014年に、先端研究組織(Urban Computing and Engineering Center of Excellence、以下 UCE CoE)を共同設立しており、2015年から海上交通マネジメント技術の研究開発を進めてきた。今回は、UCE CoEが取り組んできた高速・大規模計算科学技術を、業界や政府が直面する社会課題に応用することになる。

 今後は、共同研究開発の成果や今回の実証実験の検証によって得られる知見やノウハウを統合し、富士通が海事向けソリューションとして提供していく予定である。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名シンガポール海事港湾庁(MPA)
業種公共
地域シンガポール
課題海運貿易が盛んで船舶の交通量が増えており、シンガポール港および近隣海域における船舶航行の安全性を確保することの重要視が高まっている
解決の仕組み実際の船舶航行データから事故やニアミスの発生や、それらが起こり易いエリアを予測し、回避策を提示する
推進母体/体制シンガポール海事港湾庁(MPA:Maritime and Port Authority of Singapore)、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR:Agency for Science, Technology and Research)傘下のInstitute of High Performance Computing(IHPC)、シンガポールマネジメント大学(SMU)、富士通
活用しているデータシンガポール港の船舶の航行データなど
採用している製品/サービス/技術データ解析技術とAI技術によるリスクおよびホットスポットの算出モデル(富士通)、「エージェント・ベース・モデリング」と呼ぶシミュレーション手法に基づく予測モデル(IHPC)、「大規模マルチエージェント最適化モデリング」(SMU)
稼働時期2018年4月