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昭和大学が集中治療室の遠隔支援システムの実証運用をアジア初で開始、治療のビッグデータ活用に期待

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2018年5月29日

昭和大学は、重症な患者を集中治療する集中治療室(ICU)を対象に、遠隔地から専門医などが支援するための仕組みを構築し、実証に向けた実運用を2018年4月3日に開始した。ICUを対象にした遠隔支援システムの稼働は、これがアジア初という。欧米で導入が先行するシステムを導入することで、蓄積されているビッグデータに対する日本人のデータの比較研究などに期待する。2018年5月28日に、システムを提供する蘭フィリップスの日本法人と共に、報道陣に向けた発表会を開催した。

 昭和大学は、1928年に設立された医療専門の私立大学。医学、歯学、薬学の3学部を持ち、地域医療や高度医療、チーム医療などに力を入れている。9つある病院やクリニック、および地域の医療機関などをネットワークで結ぶ「Showa eConnect」構想を推進中で、2018年1月に電子カルテシステムを稼働させた。

 2018年4月に実証運用を始めたのは、複数の集中治療室をネットワークで結び支援センターから治療や看護について助言するための仕組み。「遠隔集中治療患者管理プログラム(eICU)として、蘭フィリップスの日本法人との共同研究の形で運用する。Showa eConnectの中核に位置する仕組みとして、2016年にeICUの共同研究に合意し、2017年は支援センターを含めた集中治療の体制や役割分担など運用面を検討してきた。

 eICUとしてはまず、昭和大学病院(東京都品川区)内に2カ所あるICUと、江東豊洲病院(東京都江東区)にあるICUを対象に、昭和大学病院内に設けた支援センターから遠隔支援する(写真1)。支援センターには、救急医療の専門医と看護師、医師事務担当者の3人が常駐し、約50人の患者の状態を見る。

写真1:昭和大学が大学病院内に設置したeICUの支援センター

 ICUでの治療を必要とする患者は、高齢化や医療の高度化に伴い増えている。一方で、重症だったり複数の病気を併発していたりする患者に対応できる専門医の数は限られる。加えてICUには最新の医療機器と24時間体制での人員配置が必要でありながら、稼働率に偏りがあるといった課題も抱えている。

 eICUプロジェクトを先導する昭和大学病院副院長兼eICU室長の大嶽 浩司 氏は、「ICUの特徴は、診療科の枠を超えた横断的な治療が必要なことと、疾患ではなく重症度が治療の基準になることだ。eICUでは、予防的に治療を施すことで、疾患の治療だけでなく患者の早期社会復帰を目指す」と、新システムに期待する。

 予防的治療を実現するため支援センターでは、各ICUで治療中の患者のバイタルデータなどを一元的に管理し、それらデータを分析することで、容体の悪い患者や病状の変化が著し患者などを早期に見つけ出し、優先的な治療をICUにうながす。必要時にはビデオ会議システムを使って、患者の様子なども見ながら現場と対話しながら治療方法を相談することもできる(写真2)。

写真2:昭和大学が稼働させたeICUの支援センター側の画面例。バイタルデータや電子カルテデータなどを一覧できるほか、必要時にはビデオ会議もできる

 昭和大学病院 集中治療科 科長の小谷 透 氏は、「データ分析に基づくアラートなどシステムの助けを借りることで、より多くの患者の状態を把握できる。重症度が低い患者でも、ある臓器の状態変化が著しいことなどが視覚的に分かるため、早期対応が可能になる」と話す。

 eICUのシステムは、蘭フィリップスが開発する「eCare Manager」を利用している。カスタマイズせずに利用している。その理由を大嶽 氏は、次のように説明する。

「eCare Managerは米国では2014年次点でICUの十数%が導入するなど利用が先行しており、これまでに400万例を超える臨床データが蓄積されている。そのビッグデータと比較研究するためには、データ形式も共通であることが望ましい。電子カルテのようにデータがベンダー別/病院別などになり相互に利用できないような状況は避けなければならない」

 eCare Managerは、クラウドベースのシステムで、臨床データは個人を特定できない形で全データを管理している。そのデータを使った研究なども進んでいる。大嶽 氏は、「欧米人と日本人は違うのではないかと医師が感覚的に思っていても、それを確認する術がなかった。eICUの仕組みが国内、アジアへと広がっていけば、データに基づく研究が可能になる」と、ビッグデータ活用に大きな期待を寄せる(図1)。

図1:「eCara Manager」は欧米で400万例以上の臨床データを蓄積している

 システムを導入したフィリップス・ジャパンの代表取締役社長である隄 浩幸 氏も、「昭和大学の実証実験をテコに、国内やアジアでのeICU導入例を増やしたい」とした。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名昭和大学
業種医療・健康
地域東京都品川区、江東区
課題集中治療室(ICU)の需要が高まる一方で専門医などが不足しており、より効率的な運用体制が求められるほか、データに基づく医療研究を進める必要がある
解決の仕組みICUと専門医が常駐する支援センターをネットワークで結び、患者のバイタルデータなどを共有しながら、遠隔地から現場の医療・看護にアドバイすることで予防的治療に切り替え、早期の社会復帰を可能にする。
推進母体/体制昭和大学、昭和大学病院、江東豊洲病院、蘭フィリップス日本法人
活用しているデータICUにいる患者のバイタルデータ、電子カルテのデータなど
採用している製品/サービス/技術患者情報を総合管理システム「eCare Manager」(蘭フィリップス製)
稼働時期2018年4月3日