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ワコール、オムニチャネル戦略の一環で3Dスキャナー常設店舗を東京・原宿にオープン

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年5月30日

ワコールが2019年5月30日、体型データを測定する3D(3次元)スキャナーを常設する店舗を東京・原宿にオープンさせた。体型データから適切な商品を選択・提案するチャットボットの仕組みも用意する。販売員による直接的な接客を望まない顧客層の取り込みや、販売チャネル別に用意してきたブランドの枠を超えた提案などに取り組む。

 ワコールが東京・原宿にオープンさせた「ワコール3D smart & try」は、全身の3D(3次元)データを測定できるスキャナー3台と、カウンセリングルーム2室を常設する新形態の店舗(写真1)。セルフサービスで体型データの計測から商品選び、試着、購入までを済ませることも、販売員によるカウンセリングを受けながら商品を選ぶこともできる。

写真1:東京・原宿にオープンした「ワコール3D smart & try」の外観

 3Dスキャナー導入の理由の1つは、若い世代を中心に販売員による採寸や接客を望まない顧客層が増えていること。下着を選ぶための採寸行為を避けたい、販売員と対話せずにセルフで自由に商品を選びたい、といった消費者が増えているという。

 ただワコールにしても、顧客のサイズ認識が誤っていたりすれば、身体に合わない下着を選んでしまうことになり商品の満足感は高まらない。「同じバスト90といっても体型はさまざま。立体的に体型を把握できなければ十分なフィット感は得られない」(ワコール)からだ。

 この課題を解消するが、ワコールが独自に開発した3Dスキャナー。体表の150万点を約5秒で測定し、測定点の関係性から体型の特徴や体積などを導き出す(写真2)。

写真2:ワコールが開発した3Dスキャナーで体型データを測定する

 測定したデータは店舗に設置したタブレット端末上で表示・確認ができる(写真3)。同データから、トップバストやアンダーバスト、ウエストやヒップのデータのほか、二の腕や太もも、ふくらはぎの周径など、いわゆる採寸データも表示する。

写真3:測定データから3D表示した体型

 これらのデータを、ワコール人間科学研究所が1964年から収集してきた延べ4万人超の体型データモデルと比較し、商品ごとに最適なサイズを提案する(写真4)。体型データは保存され、次回の計測時には顧客自身が過去のデータを呼び出し、最新の体型データと比較できる。

写真4:測定データから採寸データを導き出し、そこから商品の最適なサイズを提案する

 タブレット端末上ではさらに、AI(人工知能)チャットボットを使って、下着着用時の悩みや好みのデザインなどに応えていくことで、体型に合った下着の提案が受けられる。提案する商品は、ワコールが展開する複数ブランドを対象にする。各ブランドは、百貨店向けやオンライン向けに専用に用意しているものだが、ワコール3D smart & tryではチャネルを超えた商品選びができるようにした。

 ここまでの体型データの計測から商品の提案を受けるまでは顧客がセルフサービスで進められる。気に入った商品があれば、店頭在庫をその場で購入することも、オンラインで注文し別途受け取ることもできる。直接の対話を求める顧客層に向けては、同社が「ビューティーアドバイザー」と呼ぶスタッフによる専用個室でのカウンセリングを予約制で実施する。

 ワコール3D smart & tryは、実店舗とネットビジネスの連携を図るオムニチャネル戦略の一環。今後は、測定した3D体型データの新たな活用方法をマーケティングや商品開発などの領域で検討し、顧客との「“より深く、広く、長く”つながる環境」(ワコール)の実現を目指すとしている。

 同社は、スマートフォン用アプリやネットショップの利用者を対象にした会員制度「マイワコール(登録者数は2019年4月時点で270万人)」、「デューブルベ」ブランドで展開するオーダーメイド商品なども展開している。これらとの連携なども検討課題になるだろう。

 ちなみにワコールは、新店舗のオープンに先立ち、表参道ヒルズに4月19日から5月12日まで3D smart & tryの期間限定店舗を開設した。約2500人が来店し7割が20代〜30代だった。うち3Dスキャナーを体験したのは1000人弱で、計測待ちの列が絶えることがなく、測定についても好意的な声が多かったという。

 なお3Dデータを可視化したり商品を選択したりするためのタブレット端末用アプリケーションは、独立系ITサービス会社のテックファームが、AIチャットボットは、日本IBMがクラウド上の「IBM Watson」の照会応答機能を使って、それぞれ開発した。

 また商品や顧客、 在庫などを管理しオムニチャネルを実現するための情報管理基盤をフューチャーアーキテクトが開発している。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名ワコール
業種製造
地域京都市
課題下着を購入するための販売員による採寸や接客を望まない顧客層や、多様な買い物経験を持つ顧客層を取り込みたい
解決の仕組み3Dスキャナーを使いセルフサービスの採寸を可能にすることで、顧客がより自由に商品を選べるようにする
推進母体/体制ワコール、テックファーム(体型データ表示)、日本IBM(AIボット)、フューチャーアーキテクト(オムニチャネル基盤)
活用しているデータ3Dスキャナーで計測した顧客の体型データ、ワコール人間科学研究所が1964年から収集してきた延べ4万人超の体型データ、販売員の接客ノウハウなど
採用している製品/サービス/技術非接触三次元計測装置(ワコールが開発)、AIボットのためのIBM Watson(IBM製)など
稼働時期2019年5月30日(実店舗のオープン日)