• UseCase
  • 製造

三菱電機リビング・デジタルメディア事業本部、家電の“サービス化”目指しグローバルIoT基盤をAWS上に構築

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2019年7月18日

2つのステップを踏んでクラウド環境を移行

 既存環境のAWSへの移行は2つのステップで実施した。最初のステップでは、既存のシステム構成をそのままAWSの仮想サーバー「AmazonEC2(Amazon Elastic Compute Cloud)」に移行。ロードバランサーと監視サービス、リレーションなるデータベースにマネージドサービスを利用した(図2)。

図2:AWS移行の第1ステップでの変化(三木氏/櫻井氏のプレゼン資料より)

 次のステップで、Webサーバー機能を「ELB(Elastic Load Balancing)」に統合。通知機能とNoSQLサーバーをマネージドサービス化するなど、マネージドサービスを積極的に活用するようにした(図3)。2つのステップを踏んだのは「AWSの利用効果を理解するとともに、AWS上でのシステム開発における考慮点を把握することを当初目的に据えた」(櫻井氏)ためである。

図3:AWS移行の第2ステップでの変化(三木氏/櫻井氏のプレゼン資料より)

 移行により「仮想サーバー数が減少し、ランニングコストと運用負荷を削減できた」(櫻井氏)とする。クリックだけでスペックが変更できるAWSでは、「ざっくりとしたサイジングでも問題がないことが把握できた」(同)という。

 AWS上でのシステム開発における考慮点としても、いくつかの気づきがあった。1つは、「AWSの機能を最大限に活用するためには、アプリケーションの改修が必要なこと」(櫻井氏)。「EC2では、負荷状況に応じた柔軟なリソース変更が可能なためランニングコストの最適化が図れるが、当社は今回、単純に移行させたためスケールアウト/スケールインに対応できていない」(同)という。

 もう1つは、「システムの拡張性確保には、AWSに適したシステムの再設計が必要なこと」(櫻井氏)。「他のマネージドサービスとの新和性を確保し、データ分析などのサービス提供が容易になるのが理想だったが、既存のデータベース設計を踏襲したため、新和性を保てなかった」(同)。

世界共通のIoT基盤構築しサービス連携を促進

 今後は、マネージドサービスをフル活用し構築・運用負荷を軽減し、開発スピードの高速化を図るとともに、AWSの思想に沿った設計・開発によりマネージドサービスとの親和性を高め、連携を容易にしていく。「家電連携に向け、三菱電機製品に共通的なAWS環境となる『グローバルIoT基盤』を構築・整備する」(櫻井氏)のが目標だ。

 グローバルIoT基盤に3つの特性を持たせる。(1)マネージドサービスを活用したサーバレスアーキテクチャーの採用、(2)AWSレビューによるベストプラクティスの取り込み、(3)「Amazon API Gateway」によるパートナー企業との連携の容易性を確保だ。櫻井氏は「サービス連携、データ分析を加速し、顧客への“暮らし空間イノベーション”の実現を目指す」と力を込める。

 三木氏は、「これまで当社は、メーカーとして使いやすい製品を作ってきたが『利用者に機器を使わせる』という考え方から抜き出せなかった。顧客ニーズは機器の機能だけでは実現できず、情報活用やサービス連携を考慮する必要がある」と、メーカーの役割の変化を表現する。

 特にサービス連携においては「多くのパートナーとの協力が欠かせない。イノベーティブなモノとイノベーティブなコトをつなげ、暮らしがイノベーションする世界をサービスパートナーと実現したい。さまざまな企業とのコラボレーションを求めている」と三木氏は訴える(図4)。

図4:グローバルIoT基盤による“コト”作りの概念(三木氏/櫻井氏のプレゼン資料より)

 AWS上のグローバルIoT基盤上でどのようなコラボレーションが起こり、どんなサービスが提供されるのか注目したい。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名三菱電機リビング・デジタルメディア事業本部
業種製造
地域東京都千代田区(本社)
課題製品販売からサービス提供へ切り替えるにあたり必要なIoTデータの収集・管理基盤に物足りなさを感じていた
解決の仕組みパブリッククラウドサービス「AWS」に移行する
推進母体/体制三菱電機リビング・デジタルメディア事業本部 同技術部
活用しているデータ家電/空調製品などから取得するIoTデータ
採用している製品/サービス/技術パブリッククラウドサービス「AWS」