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コニカミノルタ、効果を出すデータサイエンス基盤を実現した3つのステップ

奥野 大児(ライター/ブロガー)
2019年7月23日

(2)Standardization(標準化)=全スタッフが参加できる仕組みを構築する

 標準化については矢部氏も頭を悩ませていたようだ。データサイエンティストに求められるスキルセットは(1)ビジネス力、(2)データサイエンス力、(3)データエンジニアリング力とした際に「これら3つが揃っている人材は稀有だ。運用方法を考えないと、理想と現実の差が出てくるばかり」(同)だからだ。

 そこで矢部氏が採ったのは、データサイエンティストに求められるスキルを、個ではなく集団として実現する考え方。すなわち「ビジネススキルを持つ人材の教育は困難だが、ITスキルや分析スキルはトレーニングが容易で、かつそれが好きな人材も少なくない。それぞれの特技を持つ人材を集めた“タスクフォース・ユニット”としてデータサイエンティストになればよい」(同)というものである。

 各部門にビジネススキルを持つ人材を選出してもらい、彼らとデータサイエンス推進室のアナリストがチームを組むことで、データサイエンティストに必要なスキルセットを得る。ただし「『とりあえず人を出して』といった頼み方では機能しない。ビジネスの現場とデータサイエンティストを連動させなければならない」と矢部氏は、注意をうながす。

 アナリストにしても、「自らビジネスの現場に出向き、ニーズやウォンツを把握することで、現場のスタッフも協力的になり真のキーマンが分かる」(矢部氏)という。

 そこでコニカミノルタでは、現場のニーズ・ウォンツの一覧を作成。それをカテゴライズしてコンセプト化を図り、ツリー構造として全体を整理した。それに対し、参考データの質の善し悪しを表すX軸と効果の大きさを表すY軸で分析・判断するといった標準化を進めていった(写真4)。

写真4:現場のニーズ・ウォンツにコンセプトを当てはめ、それをツリー構造で全体を整理した

 矢部氏は「効果額の想定は大切だ。データサイエンスに投資する基準を考えるときに、1年でどれだけの成果を狙うかという数値を考えてモデルを作っている」と話す。

(3)Optimization(最適化)=全スタッフが恩恵を享受できる仕組みを構築する

 データサイエンティストが、いくら良いモデルを大量に作れても、利用する人がいないモデルでは意味がない。「現場の理解を得られなければ、いくら優秀なモデルでも成果を残せない」(矢部氏)からだ。

 たとえば、コニカミノルタの主力製品の1つに複合機などの印刷システムがある。複合機を顧客のオフィスに設置し、運用・保守・障害対応を担う業務では、「保守担当者の作業経験や力量によって、訪問顧客数などの数値にばらつきが発生する」(矢部氏)のが一般的だ。

 そのばらつきを最小化し、下限値を高めることで平均値を高めることで働き方改革につなげる。そのために、(1)作業効率を高め、作業時間を小さくする、(2)最適化プラットフォームで各種情報を取得し、担当者の次の行動を決める、という仕組みを構築した。

 具体的には、担当者ごとの経験・技量、携行している部品から、エリア内の循環ルートをレコメンドする。だが、レコメンドした瞬間にエリア内で障害が発生するかもしれない。その場合は、どの担当者が出向き、同じエリアの他の担当者が採るべき巡回ルートを再計算しレコメンドできるようにしている(写真5)。

写真5:複合機などの保守ルートをレコメンドするシステムの画面例

 その裏側では、機器がどこに設置されているか、保守担当者のスキルや所持部品、予約された予定の有無といった情報に加え、訪問による成果見込みを「訪問意義」として数値化することで、レコメンド策を導き出している。

現場がデータサイエンスの良さを実感

 この保守技術者に訪問ルートをレコメンドする仕組みは、「移動時間は30%削減し、訪問件数は最大95%増加している」と矢部氏は胸を張る。「データサイエンスの良さを保守担当者に味わってもらっている。本来考えなくて良いことを考えなくて済むため、『自分の時間をコントロールしやすくなった』と好評だ」(同)ともいう。

 当然、この仕組みが構築できたのは、アナリストが客先訪問に同行するなど「現場を知るプロセスが重視され、その知見が活かされているから」(矢部氏)である。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名コニカミノルタ
業種製造
地域東京都港区(本社)
課題生産年齢人口の減少に伴い、自社の現場でも生産性を40%高めなければ現在のサービスレベルを維持できない
解決の仕組みデータサイエンティストと現場の担当者が共同で利用できるデータ活用のためのプラットフォームを整備し、全員参加型での生産性向上に取り組む
推進母体/体制コニカミノルタ、SAS Institute Japan
活用しているデータ複合機の保守業務においては、機器の設置場所、保守担当者のスキルや所持部品、予約された予定、訪問による成果見込みである「訪問意義」など
採用している製品/サービス/技術SASシステム