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カインズ、コールセンターをAmazon Connectに切り替えAI機能なども活用

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2019年8月2日

ベイシアグループのホームセンター「カインズ」を展開するカインズは、コールセンターの応答率向上とVoC(Voice of Customer:顧客の声)の活用に向けてコールセンターシステムをクラウドベースに刷新した。同社管理本部カスタマーサービス部 ボイスオブカスタマー分析・企画グループ グループマネジャーの西村 望 氏らが、2019年6月に開催された「AWS Summit Tokyo 2019」に登壇し、コールセンターおよびクラウドについて語った。

 「カインズ」は関東を中心に東日本、東海、関西に220店舗あるホームセンター。ベイシアグループのカインズが事業展開している。2019年6月には最新店舗、姫路大津店(兵庫県姫路市)をオープンさせた。

AIによるテキスト読み上げでオペレーション効率を向上

 カインズはこれまでもコールセンターを設け顧客対応に取り組んできた。それを2019年5月14日から順次、クラウドベースのコールセンターサービスに切り替えている。応答率を高め、VoC(Voice of Customer:顧客の声)のさらなう活用を図るのが目的だ。

 採用したのは、AWS(Amazon Web Services)の「Amazon Connect」である。カインズ 管理本部カスタマーサービス部 ボイスオブカスタマー分析・企画グループの西村 望グループマネジャーは、「当社の固有ニーズにも対応できており、オペレーション効率が劇的に向上した」と語る(写真1)。カスタマーサービス部は、顧客対応のほか、接客する店舗スタッフへの対応や通信販売の受注も担当しており、それら業務にもAmazon Connectを利用している。

写真1:カインズ 管理本部カスタマーサービス部 ボイスオブカスタマー分析・企画グループの西村 望グループマネジャー

 オペレーションの効率向上に向けて今回、カインズが利用し始めたの機能の1つに、深層学習技術を使用したテキスト読み上げサービス「Amazon Polly」がある。たとえば受電時には顧客の名前をPollyが読み上げる。これにより「クレームの電話であっても、まずはお客さまに落ち着いていただけるという効果がある」と西村氏は説明する。

 カインズのAmazon Connectは、同社のCRM(顧客関係感)システムである「Salesforce.com」と連携している。そのため、着信時は電話番号から顧客情報を検索できる。電話を掛けてきた顧客の名前のほか、過去の問い合わせ履歴もオペレーターは即座に参照できる。

 応対中もPollyを利用している。顧客対応の重要度をオペレーターの耳元で“ささやいている”という。具体的には、着信数のカウント機能により、オペレーターの対応を待っている顧客数を把握し、一定数を超えると、そのことをPollyがオペレーターに伝える。西村氏は、「対応の重要度が実際に応対する前にわかるため、対応するオペレーターの心理的負荷を軽減できる」と、そのメリットを話す。

 応答率の向上に向けては、「この「待ち呼」の可視化が重要だ」と西村氏は強調する。待ち呼とは、電話はつながっているもののオペレーターが対応できず、顧客を待たせている状態である。待ち呼を可視化することで、スーパーバイザーがオペレーターに「この電話に出てください」といった指示が可能になる。

 Amazon Connect自体には、待ち呼を可視化する機能はない。カインズでは、リアルタイムモニタリングツール「壁deコンタクト for Amazon Connect」(ズィーバーコミュニケーションズ製)を使うことで、待ち呼の可視化を実現している。

Amazon Connectの即時性、拡張性、カスタマイズ性を評価

 今回、カインズがコールセンターの仕組みとしてAmazon Connectを選んだ理由は、「即時性、拡張性、カスタマイズ性の3つのメリットがあったためだ」とカインズ 業務インフラ改革本部 ITイノベーション推進室の野原 昌崇 室長は語る(写真2)。

写真2:カインズ 業務インフラ改革本部 ITイノベーション推進室の野原 昌崇 室長

 即時性とは、クラウドサービスのため立ち上げが素早いこと。野原氏は「ファーストタッチでも約30分で立ち上げられた。オンプレミス製品や、他のコンタクトセンター用クラウドではあり得ないと思った」と感想を述べる。導入に当たりカインズがAWSと初回ミーティングを持ったのは2019年3月22日。そこから5月14日には最初の本番環境をリリースしている。

 拡張性とは、AWSが提供する他モジュールとの親和性の高さと、カインズが使用しているCRMシステムのSalesforce.comとの連携に特別な開発が不要なことである。

 カスタマイズ性は、独自開発したソフトフォンでオペレーションを実行できたり、BIツールの「Amazon QuickSight」が活用できたりすることだ。このほか、Amazon Connectが完全な従量課金制のため「他のクラウドサービスよりもコストメリットもあった」と野原氏は話す。