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前田建設、脱ゼネコンに向けシステム環境をAWSに集約しアジャイルな内製化にシフト

奥野 大児(ライター/ブロガー)
2019年8月6日

前田建設工業が、従来型のゼネコンから「総合インフラサービス企業」へ事業形態を切り替えるため、システム開発環境の内製化に取り組んでいる。同社の情報システムセンターICI総合センターAI・IoT研究センター長の高橋 哲郎 氏が2019年6月に幕張メッセで開かれた「AWS Summit Tokyo 2019」に登壇し、同社の取り組みを紹介した。

 前田建設工業は、2019年1月に創業100周年を迎えた老舗企業。その同社が、従来型のゼネコンから「総合インフラサービス企業」へと事業形態の変革に取り組んでいる。その一例が、仙台国際空港の30年間の運営権を得る構成企業になったり、愛知県の有料道路における30年間の運営権を得た代表企業になったりしたことだ。いずれも、国や地方自治体が所有していた運営権を買い取る事業である。

 こうした事業変革と並行して、前田建設が取り組むのがシステム開発の内製化だ。同社 情報システムセンターICI総合センターAI・IoT研究センター長の高橋 哲郎 氏は、「種々の開発において新しい開発手法を採り入れる場合、その手法の経験を持つ外部企業に開発を任せる方法もあるが、当社は自社のエンジニアが開発手法を習得する方向性を選択した」と語る(写真1)。高橋氏は、同社の情報システム総合センター情報戦略・システム企画グループ長を兼務する。

写真1:前田建設工業の情報システムセンターICI総合センターAI・IoT研究センター長 兼 情報システム総合センター情報戦略・システム企画グループ長の高橋 哲郎 氏

差別化のためのシステムはアジャイルで内製化したい

 高橋氏が言う新しい開発手法とは、アジャイル開発などだ。同手法などを駆使することで、「製品やサービスが存在せず自社開発によって差別化を目指すシステムと、現在または未来に必要になる重要技術の開発に取り組む」のが同社の方針である。重要技術の開発では「先進的なベンチャー企業の力を借りて共創していきたい」(同)ともいう。

 同社がアジャイル開発に取り組むのは、つい最近のことではない。2011年、外販事業における開発生産性を高めるためにアジャイル開発手法を導入したのが最初だ。「2000年代、Webシステムの開発コストは高く、複雑なコードや終わらない回帰テストなど、それまでの設計開発手法に限界を感じていた」(高橋氏)からだ。

 高橋氏は当時を「「私たちが真似できない、まばゆいばかりのことに(世の中のエンジニアが)取り組んでいた。彼らに憧れてOSS(オープンソースソフトウェア)やアジャイル開発手法に取り組んだことで、クラウド化が進展し始めた」と当時を振り返る。

 以後、さまざまなクラウドサービスを利用しマルチクラウド環境を構築してきたが、現在は「AWS(Amazon Web Services)にシステムを集約しているところ。2020年度に完全にクラウド化する予定」と高橋氏は話す。

ビッグデータ基盤「BizSide」をAWS上に構築

 その一例が、ビッグデータ基盤となる「BizSide」。建設業務に関わる種々のステークホルダーが情報を共有するための建設クラウドとして、AWS上に構築した(写真2)。

写真2:AWS上に構築したビッグデータ基盤「BizSide」の構成

 外部サービスやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)システムから生成されるデータをAWSのストレージサービス「S3」に上げ、ビッグデータフレームワークの実行・分析サービス「Amazon EMR」を使ってデータマートを構築する。「まずは、データをどんどん貯められる点が素晴らし。どこかの仕様が決まらない限りデータが蓄積できないということがない」と高橋氏は自賛する。

 前田建設が、アジャイル手法によって開発した社内システムは大小合わせて30に上る。開発用フレームワークには主に「Ruby on Rails」を採用し、大小さまざまなシステムを開発している。アジャイル開発手法の1つである「スクラム(Srcum)」に則り1週間単位の開発を繰り返すことで「利用者にとって意味のある、実際に動くシステムを毎週リリースしている」(高橋氏)という。

 継続的にシステムをリリースするためにはCI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デプロイメント)の環境整備も必要だ。CIにおいては「Jenkinsによる自動テストの分散実行環境を構築することで回帰テストのコストはゼロになっている。テストを並列して実行することで、規模が大きなものでも15〜20分ほどで終了する」と高橋氏は説明する(写真3)。

写真3:前田建設のCI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デプロイメント)環境

 CDでは、チャットボットと対話しながらデプロイできる環境を構築している。チャットボットがアクセスログやエラーログから問題をフィードバックする仕組みもある。

 こうしたアジャイル開発手法を導入した効果として高橋氏は、開発生産性の直接的な向上のほかに、「先進的な開発思想や、(記録型のシステムと顧客獲得型のシステムという異なるシステム形態に対応できる)バイモーダルな組織に変わることによる柔軟性が得られた」ことを挙げる。