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東工大など、放牧牛を担保にした融資を受けるための牛の遠隔監視システムを沖縄県竹富町で実証実験

DIGITAL X 編集部
2021年8月17日

放牧牛を担保に畜産農家が銀行から融資を受ける際に必要な牛の個体数や各個体の状況を把握するための遠隔監視システムの実証実験を、東京工業大学(東工大)などが沖縄県竹富町で開始した。牛の複雑な行動や姿勢をAI(人工知能)技術で推定する。実験に参加する電通国際情報サービス(ISID)らが2021年7月27日に発表した。

 畜産農家が融資を受ける方法の1つに、動産・債権担保融資(ABL:Asset Based Lending)がある。放牧牛を担保とする場合は、担保となる個体数の確認や個体ごとの状況を把握する必要があるが、そのための時間とコストがかかるという課題がある。

 そこで東京工業大学(東工大)と信州大学などが、牛群の遠隔監視システム「PETER」の実証実験に取り組み、個体を遠隔から監視し管理業務を省力化できるかどうかの有効性を検証する(図1)。「牛の島」として知られる沖縄県竹富町黒島のさくら牧場で、2022年3月末まで実施する予定だ。

図1:「PETER」システムを使った放牧牛の遠隔監視のイメージ

 システムに必要な機能の洗い出しや課題の抽出のほか、銀行がABL業務に取り組むに当たり有効なデータ項目の抽出と、クラウドシステムを介した銀行へのデータ提供のあり方も検証する。得られたデータを銀行にも提供することで銀行側の管理業務も省力化を図り、畜産経営の持続可能性を高めたい考え。

 実験では、さくら牧場が飼育する放牧牛10頭に首輪型センサー機器「PETERエッジ」を装着(写真1)。PETERエッジが持つ加速度センサーや気圧センサー、GPS(全地球測位システム)などで取得したデータを、組み込み型AI(人工知能)で分析し、放牧牛の位置や、伏臥位・立位、歩行・休息、飲水・摂食・反芻といった行動や姿勢を推定する。

写真1:首輪型センサー機器「PETERエッジ」を装着した放牧牛の例

 推定した放牧牛の情報は、牧場内の環境データとともにデータ量を圧縮し、LPWA(Low Power Wide Area)技術である「ELTRES」(ソニー製)を使って、クラウドシステム「PETERクラウド」に送信し集約する。クラウド上で可視化し、スマートフォンなどを使って放牧牛を遠隔監視できるようにする(図2)。

図2:牛群管理スマホアプリの画面例(提供:東京工業大学 大橋匠助教)

 実証実験に参加するのは、プロジェクトチームリーダーの東工大、サブチームリーダーの信州大学、さくら牧場のほか、テクノプロ・デザイン社(テクノプロの社内カンパニー)、電通国際情報サービス(ISID)、ファームノート、ソニーグループ、鹿児島銀行を加えた8組織である(表1)。

表1:沖縄県竹富町黒島での「PETER」の実証実験に参加する組織と役割
組織名役割
東工大首輪型センサー機器やクラウドシステム、インタフェースの開発など
信州大学農学部附属農場における放牧牛の行動データを基に、エッジAI学習のための教師データの作成や、エッジAI処理による行動分類の検証など
さくら牧場PETERシステムを活用するとともに、放牧利用の畜産農家にとって本システムがより良いものになるようアドバイスする
テクノプロ・デザイン社PETERシステムのコア技術であるエッジAIやクラウドシステム、LPWAを用いたアプリケーションを開発。農家へのヒアリングを含めた企画から要件定義、実装までの実業務を担当する
ISIDクラウドシステムの運営やデータ解析などにより、畜産ABLのための放牧牛の行動データの有効性を検証。共同プロジェクトチームと鹿児島銀行、さくら牧場間のマネジメント業務も担当する
ファームノート牛向け生体モニタリング技術のノウハウを提供する
ソニーグループ低消費電力のプロセサボードやLPWA通信網を提供し、技術開発に協力する
鹿児島銀行これまでの畜産ABLの実績をベースに、放牧牛を対象にした本実証実験を金融機関の視点で支援する

 ほかにも、PETERエッジの開発において、アートアンドプログラムとサカイデザインアソシエイツの協力を得ているほか、ELTRES通信のアンテナに日本アンテナ製を利用している。

 なお本実証実験は、「東京工業大学COI(センター・オブ・イノベーション)『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点」の「動物のサイレントボイスとの共感」共同プロジェクトチームを主体に実施するもの。

 「サイレントボイスとの共感」とは、地球上の人類の枠を越えた種々の声なき声(サイレントボイス)に対し、センサー技術やAI処理を用いて耳を傾け共感する(インクルーシブセンシング)こと。これにより、人・社会・環境の問題について、人を通じて環境負荷が低く地球に優しい方法で人間自らが解決するサイクルの実現を目指す。