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千葉県ら、ナシの栽培にロボットやAIを活用する実証実験を開始

DIGITAL X 編集部
2021年9月16日

千葉県が代表を務めるコンソーシアム「千葉県ナシ栽培スマ農コンソ」は、ナシの栽培を対象に、ロボットやAI(人工知能)技術を利用する農業技術の体系化に向けた実証事業を開始した。作業者の負荷軽減や、ほ場ごとの防除計画の立案支援の実現を目指す。コンソーシアムに参画するNTTデータ経営研究所が2021年9月8日に発表した。

 千葉県は、ニホンナシ(和なし)の産出額と栽培面積では全国1位で、海外からの需要も高まっている。一方で、ナシの収穫作業は人力によることや、気候変動によって病害虫の薬剤防除の実施タイミングの判断が難しくなっているなどの課題もある。

 こうした課題をロボットやAI(人工知能)技術などを使って解決を図るために、千葉県を代表として結成されたコンソーシアムが、千葉県ナシ栽培スマ農コンソだ。今回、県内の市川市と成田市に、ほ場を持つヤマニ果樹園において、テクノロジー活用の実証実験を開始した。

 実証では、(1)ヒトを追従する運搬ロボット作業車の導入、(2)ほ場ごとの気象データに基づく病虫害発生予測と農薬散布適正化のナビゲーション、(3)ナシ園の画像をAI技術で分析する生育解析の3つのテーマを検証する(図1)。

図1:ナシの栽培における課題と対応方針

 ヒトを追従する搬送ロボット作業者の実証では、収穫や、せん定枝の回収・結束、除草剤散布における作業の省力化を目指す。労働負荷の軽減効果については、作業者が装着するウェアラブル端末で得られる心拍数の変化などから確認する。

 気象データの活用では、気象データを広範囲に収集するセンサーネットワークを構築し、アメダスなどでは取得できない詳細データを取得する(図2)。

図2:気象データ取得のために構築するセンサーネットワークの概念

 気象データは栽培支援用のスマホアプリ「梨なび」に反映させる。梨なびには、黒星病の感染危険度をリアルタイムに予測し、農薬散布による防除適期をナビゲーションする機能を搭載することで、ほ場ごとの防除計画の立案を容易にするとともに、使用する農薬の種類の削減を後押しする。

 栽培棚の画像に基づく生育解析では、ロボット作業車にカメラを搭載し棚下からの画像を撮影し、その画像をAI技術で解析する。生育状況は従来、生産者が感覚的に把握していたが、より客観的なデータとして把握できるようにする。

 黒星病の感染危険度情報やAI技術による生育解析結果は、クラウド上で共有し、リモートで普及員からの指導を受けられるようにするとともに、生産者同士が情報を共有できる仕組みも構築する。

 千葉県ナシ栽培スマ農コンソには、農家や農業関連団体のほか、各種のデジタル技術を持つ企業などが参加している。今回の実証における役割を表1に示す。

表1:千葉県ナシ栽培スマ農コンソの実証事業への参加者と、それぞれの役割
組織名役割
千葉県農林総合研究センター担い手支援課東葛飾農業事務所実証全体の推進、実証フィールドのとりまとめ、ホームページによる広報、普及指導員への研修による情報共有と現地への普及活動
ヤマニ果樹農園スマート農業技術のほ場実証、実証技術における経営データの収集
NTTデータ経営研究所事業全般の管理・統括、軽労化の検証、ビジネスモデルの検討
NTTデータCCSナシの棚下から撮影した画像からAI技術で生育を解析するシステムの開発
NTT東日本微気象データを収集するためのセンサーネットワークの構築、効率的なデータ収集方法の検証
アイ・イートロボット作業車の開発
イーエスケイ病害虫防除ナビゲーションシステムの開発・改良
市川市農業協同組合輸出に関するデータの取得、生産者との連絡調整および実証技術への改良・開発および普及に向けた助言
全国農業協同組合連合会千葉県本部開発する実証技術への改良・開発および普及に向けての助言
千葉県果樹園芸組合連合会なし部会実証に関する調査への協力、農家の意見のとりまとめ、普及フェーズでの広報など
市川市市川市のナシ生産に係るスマート農業の推進

 今回の実証は、農林水産省事業の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」を活用して実施する。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名千葉県ナシ栽培スマ農コンソ
業種農林水産
地域千葉県市川市および成田市(ヤマニ果樹農園のほ場)
課題全国1位の産出量を持つナシの栽培において、人力による労働への依存度や、気候変動による薬剤防除タイミングの判断が難しくなるなどの課題を解決したい
解決の仕組みロボットやAI技術を使ったスマート化を図る。実証では、ヒトに追従するロボット作業車の導入や、気象データに基づく黒星病の感染危険度予測および農薬散布に適した時期のナビゲーション、画像による生育解析を検証する
推進母体/体制千葉県ナシ栽培スマ農コンソ(千葉県、NTTデータ経営研究所、ヤマニ果樹農園など)
活用しているデータヒトの動き、ほ場ごとの気象データ、カメラが撮影した棚下からのナシの画像
採用している製品/サービス/技術ヒト自動追従ロボット、センサーネットワーク、AIなど
稼働時期2021年9月8日(実験開始の発表日)