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くら寿司、スマート養殖などを手掛ける水産専門会社を設立

DIGITAL X 編集部
2021年11月9日

回転寿司チェーン「くら寿司」を運営する、くら寿司が2021年11月1日、食材となる魚類を養殖する新会社を設立した。国際基準を満たした「オーガニックはまち」を生産するという。デジタル技術を利用したスマート養殖も手掛ける。2021年11月2日に発表した。

 くら寿司が設立した「KURAおさかなファーム」は、魚の安定供給に向けて養殖業に取り組むための子会社。グループ内で、生産から販売までをワンストップで手掛けられる体制を構築し、供給量の安定的確保とコスト管理の実現を目指す(図1)。

図1:くら寿司の新会社「KURAおさかなファーム」の役割

 そのために、生産者や漁協とも連携し、収益機会の提供と労働効率の改善により、若者の漁業への就業や地方創生にも貢献したい考えで、限りある海洋資源の保全や漁業の持続可能な発展に向けて協力していくとする。

 具体策としては、漁業協同組合に加入して漁業権を取得したうえで、付加価値が高い魚を養殖する。まずは、国際的基準を満たす“オーガニック水産物”として「オーガニックはまち」の生産を開始する。

図2:くら寿司が養殖する「オーガニックはまち」

 オーガニックはまちは、くら寿司が2018年から研究開発に取り組んできたもので、飼料製造、漁場での養殖、製品加工までの生産過程とトレーサビリティにおいて国際基準に準拠し、日本で初めて認証を取得した。海外輸出も視野に入れるほか、他魚種の生産についても検討する。

 さらに人手不足と労働環境の改善に向けて、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を使った「スマート養殖」にも取り組み、持続可能で国際競争力のある水産経営モデルを創出する。

 スマート養殖では、ウミトロンが開発するスマート給餌機「UMITRON CELL」を使用する。養殖事業で最も手間がかかる人手によるエサやりをなくすとともに、必要なエサを的確なタイミングに与えることで、成育スピードを早め、餌のロスを減らす(図3)。

図3:スマート給餌機「UMITRON CELL」(ウミトロン製)を使ったスマート養殖のイメージ

 養殖用の機器をリースし、実際の生産は外部に委託し、養殖業への新規参入を促す。養殖魚は、KURAおさかなファームが中長期契約で全量買い取ることで、生産者の収入の安定化を図る。

 将来的には、養殖だけではなく、くら寿司が10年以上をかけて協力体制を構築してきた全国の漁協などと提携し、国産天然魚の卸売り事業も計画する。くら寿司以外の全国のスーパーに販売すうなど、漁協の販路開拓につなげたい考えだ。

 くら寿司によれば、世界一の水産大国だった日本は今、諸外国に比べて大きく衰退。世界の漁業・養殖業の生産量が増加しているのに対し、日本は大幅に減少している。背景には、少子高齢化に加え、天候や魚価の変動による不安定な収入と、海上での作業や不規則な労働時間など労働環境の厳しさなどによる若者の漁業離れがある。

 一方で、海外の魚食ブームにより、魚の価格は年々上昇しており、安定した価格と量の供給が、将来的な課題になる可能性がある。そうしたなか、2020年12月1日に施行された改正漁業法により、企業の養殖分野への参入が規制緩和されている。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名くら寿司
業種流通・小売り
地域大阪府堺市(本社)
課題世界的に魚食が広がり、コストを含め魚の安定確保が難しくなってきており、商品の安定供給が将来的に厳しくなる可能性がある
解決の仕組み養殖業を営む新会社を設立し、国際基準に準拠する養殖ハマチを生産するほか、スマート養殖のための仕組みをリースし生産者を確保する
推進母体/体制くら寿司
活用しているデータ魚の成長度やエサを与えた時間や量など
採用している製品/サービス/技術スマート給餌機「UMITRON CELL」(ウミトロン製)
稼働時期2021年11月1日(新会社の設立日)