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静岡県熱海市、観光振興と交通弱者支援のためのデマンド型相乗りタクシーを実証へ

愛甲 峻(インプレス総合研究所)
2021年11月15日

静岡県熱海市は、観光客の周遊や地域の消費促進および交通弱者の移動支援を両立するために、相乗りタクシーの実証事業を2021年12月中旬に開始する。そのための事業支援機関として「熱海次世代観光・地域交通プラットフォーム協議会」を設立した。地域交通のためのプラットフォームを構築し、低コストで利便性が高い移動サービスの実現を目指す。2021年11月5日に発表し、同11月8日に現地で記者説明会を開いた。

 静岡県熱海市で始まる「熱海観光消費促進プラットフォーム構築実証事業」は、AI(人工知能)を使ったデマンド型の相乗りタクシーを運行し、観光客の周遊や消費の促進、および地元の交通弱者の支援の両立を目指すもの。それに向け、事業を遂行・支援する産学官連携機関「熱海次世代観光・地域交通プラットフォーム協議会」を立ち上げた。実証は、2021年12月中旬から2022年2月末まで実施する。

 相乗りタクシーは、予約に応じて配車するデマンド型で、AI技術を使って運行ルートを決定する。予約はスマートフォン用アプリケーションか、キオスク端末、電話で受け付ける(図1)。利用時には予約内容を電子または紙のチケットを提示するか口頭で伝える。

図1:相乗りタクシーの予約・運行システムのイメージ

 観光客を対象にした実証では、観光情報へのアクセスから移動サービスを利用するまでをシームレスに提供する「ミニツアー」サービスを実施する。そのために、観光地の魅力を伝える動画コンテンツの配信サイトと、ジョルダンが提供する「乗換案内」サービス、および相乗りタクシーの運行システム「あいのり」(エクトラ製)を連携させる。

 交通が不便な地域を中心とする地元住民に対しては、買い物や食事、医療といった目的のための移動を相乗りタクシーで支援する。観光客も対象にする。そこでは、施設紹介システムと乗換案内、相乗りタクシーのシステムの連携を図る。

 加えて、相乗りタクシーを使った食品の搬送事業も実証する。弁当や料理を店舗から自宅へ運ぶ。熱海市観光建設部次長の立見 修司 氏は「ホテル・旅館へのデリバリーは、泊食分離によって観光地の混雑を平準化し、観光客が安心して熱海を楽しめる機会の創出につながる。別荘やリゾートマンションへのデリバリーは、所有者の来訪機会を増やし市内経済の活性化につながると期待する」と話す。

 相乗りタクシーの利用料金は、実証事業では基本的に無償とする。ただし、地元住民を対象にした実証では、サービスの提供回数が900回までは無償とし、以後は有償に切り替える。料金を含めた許容範囲を検証するためだ。運賃体系はコストシェア型とし「乗客が乗降距離に応じて按分することで、相乗りのメリットを最大限活かす形を想定している」(事務局)

 今回の事業は、沖縄や宮古島で相乗りタクシーなどのMaaS(Mobility as a Service)を実証しているジョルダンと熱海市の有志が立案した。実行には、観光庁の2020年度「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」の支援を受けている。

 設立した熱海次世代観光・地域交通プラットフォーム協議会には、熱海市、熱海市商工会、熱海市観光協会、熱海市温泉ホテル旅館協同組合、静岡県タクシー協会熱海支部、熱海高校、沼津高等専門学校、エクトラ、およびジョルダンが参加する。

 地域の情報提供や調整業務の支援は熱海市と地元経済団体が担当。地域住民や観光客のニーズ調査や、誘客のための動画コンテンツ作成支援は熱海高校が、コンテンツ配信システムの開発・運営には沼津高等専門学校が、それぞれ協力する。相乗りタクシーのシステム「あいのり」はエクトラが提供し、全体システムの構築および事業推進はジョルダンが担当する(図2)。

図2:「熱海観光消費促進プラットフォーム構築実証事業」の推進体制

 今回構築する相乗りタクシーの仕組みは、観光と地域交通のためのプラットフォームとしての構築を目指す。将来的には災害時の避難を支援する機能の付加などで、地域に貢献できる活用方法を模索する。ジョルダンの代表取締役社長である佐藤 俊和 氏は、「実証だけで終わらずサービス化を図り、熱海を日本で一番便利な街にできればと考えている」とした。

 熱海市では近年、地域全体の観光消費が減少しているうえに、コロナ禍や災害の影響もあり観光事業者の経営状況が悪化している。若年層の観光客を中心に、移動範囲が駅を中心とした徒歩圏内に偏り、市内の観光資源が十分に活用できていない。熱海温泉ホテル旅館協同組合・組合長の森田 金清 氏は「熱海の魅力を隅々まで知ってもらうためには、安価な交通網が必要だ」と強調する。

 加えてバス路線が縮小し、地域の足としてのタクシーの維持存続が課題になっている。高齢化率が48%まで上昇し、運転免許返納も増える中、高齢者を中心に交通弱者が増加しているという状況もある。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名静岡県熱海市
業種公共
地域静岡県熱海市
課題観光客が減る中で、若年層は駅を中心に移動範囲が縮小し、宿泊需要も減少し観光消費が落ち込んでいる。加えて、地域交通インフラが衰退し、高齢化と相まって交通弱者が増えている
解決の仕組み相乗りタクシーを運行し、観光客には動画サイトと乗換案内との連携により観光客の誘致と移動を促す。地元の交通弱者には、買い物や食事、医療などの利用に相乗りタクシーを提供するほか、食品デリバリーにも利用する
推進母体/体制熱海市、ジョルダン、熱海次世代観光・地域交通プラットフォーム協議会(熱海市、ジョルダン、熱海市商工会、熱海市観光協会、熱海市温泉ホテル旅館協同組合、静岡県タクシー協会熱海支部、熱海高校、沼津高等専門学校、エクトラ)
活用しているデータ相乗りタクシーの予約・発券情報、移動と連携するサービスの施設情報など
採用している製品/サービス/技術乗換案内、モバイルチケット(ジョルダン製)、相乗り型タクシー運行システム「あいのり」(エクトラ製)
稼働時期2021年12月中旬~2022年2月28日(実証事業の期間)