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東急、定額制宿泊サービスのコンシェルジュ機能をChatGPTで構築

有澤 愛文(DIGITAL X 編集部)
2023年8月1日

東急は、定額制宿泊サービスにおいて、 “お薦め”情報を提供するコンシェルジュ機能をAI(人工知能)チャットサービス「ChatGPT」を使って構築した。2023年5月17日からの宿泊サービスの一般提供と合わせて稼働を始めている。ChatGPTの基本機能の使いながら、自社の宿泊サービスにより合致した回答ができるよう工夫したという。

 東急が2023年5月17日に開始した「TsugiTsugi(ツギツギ)」は、ホテルや旅館、グランピング施設など日本各地の宿泊施設に定額で宿泊できるサービス(図1)。「個人向けプラン」と、法人が宿泊数を一括購入し従業員が利用する「法人向けプラン」を用意する。2021年4月から先行体験を実施してきたものを一般に公開した。2023年5月17日時点では、110施設が利用できる。

図1:定額制回遊型宿泊サービス「TsugiTsugi」の概要

 一般提供に合わせて宿泊先などの“お薦め”をチャット形式で提示する「旅先コンシェルジュ」を開発した(図2)。その理由を東急 ホスピタリティ事業部 事業戦略グループ 主査 川元 一峰 氏は、こう説明する。

 「TsugiTsugiで宿泊できる施設数が増えるにつれ『どこに行くべきか悩んでしまう』『旅先や宿泊施設のおすすめや提案がほしい』という声が増えてきた。利用者のニーズに合致し、かつ自身も気づいていないような旅先を提案したい」(川元氏)

図2:「旅先コンシェルジュ」の画面イメージ

 旅先コンシェルジュの開発には、対話型AI(人工知能)サービスの「ChatGPT」(米OpenAI製)の「GPT-3.5」バージョンを採用した。一般的なAIチャットボットは、「事前に用意したFAQ(Frequently Asked Questions)に基づく回答しかできず、多岐に渡る利用者ニーズに対し、宿泊施設の適切なマッチングが難しかった」(川元氏)からだ。

 ChatGPTは、利用者とのインタフェースとなる「AIキャラクター」の実現に利用している(図3)。AIキャラクターで取得した利用者ニーズと宿泊施設や地域の情報の比較、それをもとにした回答内容の抽出には、比較用AI技術「Embedding」(米OpenAI製)を利用する。

図3:「ChatGPT」は、入力内容の理解と回答の出力に利用している。入力内容と宿泊施設情報などの比較には別のAI技術「Embedding」を組み合わせている

 AIキャラクターとしては4種類を用意する。(1)食事に詳しい良家の娘、(2)子連れ旅行に詳しい子ども、(3)風呂を愛している相撲取り、(4)駄洒落好きなカエルだ。ChatGPTへのプロンプト(指示)の調整や与える情報を変えることで、「キャラクターごとに得意分野や性格、言葉づかいや口癖を設定し、個性を備えた人間らしいやりとりを楽しめるようにした」(川元氏)という。

 AIキャラクターを通じて取得した利用者ニーズを示す情報は、Embeddingでベクトル(数値列情報)化することで、同じくベクトル化した宿泊施設の情報などと比較する。しかし、ChatGPTのGPT-3.5では、日本語で入力できる文字数に「一度に約2500文字まで(開発当時)」という制限がある。そのため宿泊施設に関する情報については、1施設の情報ですら入力し切れない。この制限をEmbeddingのベクトル化機能により回避し、より多くの情報を扱えるようにした。

 これらの仕組みにより、TsugiTsugiが対象にする宿泊先などの情報を利用者ニーズに合わせて「概ね適切に提供できている」(川元氏)。ただ課題もある。ChatGPTが学習済みの2021年9月以前の情報から、事実とは異なる内容や文脈と無関係な内容を回答する「ハルシネーション(hallucination、幻覚)」が発生してしまうことだ。

 旅先コンシェルジュの開発を担当したシステム開発会社アムンゼンの永川 圭介 社長によれば、「開発当初は、ChatGPTが回答する情報の半分でハルシネーションが発生していた」。それを回避するために採ったのが上述したAIキャラクターによる利用ニーズの聞き出しや、Embeddingによるベクトル化による情報の比較である。結果、「実在する宿泊施設については9割近く正確な情報を回答できるようになった」(永川氏)という。

 ただし、ハルシネーションの発生は完全にはなくせない。そのため東急は、ハルシネーションが起こる可能性を伝える注意書きを表示しているほか、提案内容を表示する際には、その元になっているオリジナル情報のURLなども同時に表示し、利用者による最終確認をうながす形を採っている。

 旅先コンシェルジュの開発期間は2カ月程度。機能を宿泊先の提案に絞ることで工期を短縮した。今後は、旅先コンシェルジュとTsugiTsugiの予約システムのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)連携を図り、「旅の予定の立案から実際の予約までをAIシステムが実行する仕組みも構築できると考えている」と川本氏は話す。

写真1:東急 ホスピタリティ事業部 事業戦略グループ 主査 川元 一峰 氏

 加えて、旅先コンシェルジュでのチャット内容から、「施設に対する本当のニーズなど利用者の本音を深掘りしサービスの改善につなげたり、ファインチューニング(追加学習)により利用者が入力した情報を活用したりも検討している」(川元氏)という。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名東急
業種サービス
地域東京都渋谷区(本社)
課題定額制宿泊サービス「TsugiTsugi」の利用者に対し、ニーズに応じた宿泊施設を提案したい
解決の仕組み「ChatGPT」を活用し、宿泊/旅行のニーズを引き出すとともに、そこから抽出した結果を対話型で提案する
推進母体/体制東急、アムンゼン
活用しているデータチャットに利用者が入力したテキスト情報、宿泊施設や地域の情報
採用している製品/サービス/技術チャット用AI「ChatGPT(GPT-3.5)」、テキストをベクトル化(数値データ化)に変換するためのAI「Embedding」(いずれも米OpenAI製)
稼働時期2023年5月17日(AIチャット機能「旅先コンシェルジュ」の提供開始時期)