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ダイハツ工業、“仲間”と“テーマ”を集め現場へのAI技術の浸透を加速

ダイハツ工業 DX推進室 データサイエンスグループ グループリーダー 太古 無限 氏

岡崎 勝己(ITジャーナリスト)
2023年7月25日

ダイハツ工業は2023年1月、DXビジョン・方針を発表した。そのきっかけを作ったのは、開発部門におけるAI(人工知能)技術の活用に向けた“草の根”活動である。同社DX推進室 データサイエンスグループのグループリーダー太古 無限 氏が、東京で2023年5月に開催された「CIO Japan Summit 2023」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン)に登壇し、草の根活動が全社方針にまで発展した経緯や、啓蒙時の心構えなどについて説明した。

 「AI(人工知能)技術の活用に乗り遅れれば当社の生き残りは厳しい。ただ『今ならまだ間に合う』との思いから2017年、エンジン制御を担当していた部内の有志3人でAIのWG(ワーキンググループ)を立ち上げた」−−。ダイハツ工業のDX推進室 データサイエンスグループでグループリーダーを務める太古 無限 氏は、同社におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みの契機をこう話す(写真1)。

写真1:ダイハツ工業 DX推進室 データサイエンスグループのグループリーダー 太古 無限 氏

 トヨタグループの一角をなすダイハツ工業は、軽自動車の国内新車販売台数シェアで17年連続トップを走ってきた。しかし、自動車業界がかつてない大変革期に突入する中では、同社もまたデジタル時代の“あるべき姿”への脱却に取り組んでいる。

 太古氏らが立ち上げたWGの活動はその後、開発領域だけでなく幅広い業務で成果を積み上げていく。2020年10月には開発部内にデータサイエンスグループもできた。そして2022年1月にDX推進チームが正式に発足。同チームのリーダーに就いた太古氏は「社内にAIブームを起こす」と宣言し、活動を牽引してきた。その動きがダイハツ工業のDXビジョン・方針の策定につながっている(図1)。

図1:ダイハツ工業におけるAI技術活用の取り組みの変遷

AI活用に協力してくれる人材発掘に一貫して注力

 DXビジョンにおいてダイハツ工業は、(1)モノづくり、(2)コトづくり、(3)ヒトづくりの3つの変革を本格化させていく。そのために「まずは現場で多くの事例を作り、将来に向けて、ある程度の道筋を付けた後に、トップダウンで一転突破を図る」(太古氏)計画だ。DX推進チームは、「2025年までに“データとAIの民主化”を実現できるよう、現場のAI活用の支援と横展開のための標準化に取り組む」(同)

 明確な方向感を示すダイハツ工業だが、「WG発足当初は、AI技術が持つ力がまだ十分に知られていなかった。業務の多忙さなども相まって、活動を揶揄する声も多々聞かれた」と太古氏は振り返る。それだけに太古氏は「AI活用を拡大するための原動力は社内事例の積み上げだ。それには“仲間集め”が重要だ」と当初から強く意識していたという(図2)。

図2:AI技術活用の社内への浸透ではまず“仲間集め”から取り組んだ

 「AI技術の活用では、より早く、より遠くまで進まなければならないとの危機感が強かった。その達成には事例を作る仲間が欠かせない。AI活用に協力してもらえる人材の発掘に一貫して注力してきた」

 ただ実は、「AI技術への関心は始まりの時点でもそう低くはなかった」(太古氏)とも言う。2019年に立ち上げた社内サークル「機械学習研究会」も、15人を募集したところ60人以上が参加、メンバー数はすぐに100人超にまで増えた。

 同研究会では、データサイエンティストが競う競技基盤「Kaggle」のコンペを介した分析ノウハウの獲得や、プログラミング教材となる「Lego」を使った自動運転のためのPytho講座などを実施し、AI活用の新たなアイデア創出に取り組んでいる。