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日立GEニュークリア・エナジーら、原子力発電所の工事業務へのメタバース利用を検証

DIGITAL X 編集部
2023年12月29日

日立GEニュークリア・エナジーと日立プラントコンストラクション、および日立制作者の3社は、原子力発電所での工事業務にメタバースを利用するための検証を実施した。現場で実施していた夕礼をメタバース上で実施したところ、業務効率向上への有効性を確認できたという。メタバースの基盤を開発した日立製作所が2023年12月18日に発表した。

 日立GEニュークリア・エナジーは原子力発電所の設計を、日立プラントコンストラクションは原子力発電所の施工・保守を、それぞれ手掛けている。2023年7月から8月にかけて、原子力発電所の移設工事を想定し、日常業務へのメタバースの利用を検証した(図1)。現場で実施している日次の夕礼をメタバース上で実施し、業務効率の向上における有効性を確認できたという。

図1:メタバース上に再現した原子力発電所内の構造物の実寸大模型

 検証は、原子力発電所の実寸大模型(モックアップ)の移設工事を想定して実施した。具体的には、工事現場で日次で実施している夕礼をメタバース上で実施した。結果、遠隔地にいる関係者間で、VR(Virtual Reality:仮想現実)ゴーグルや高性能なPCなど特別な機器を使わなくても、現場の状況の共有や合意形成ができたとしている。

 それにより、図面のタイムリーな発行や実態に合わせた計画立案が可能になり、部署間の認識齟齬(そご)に起因する工事の手戻りや他の作業の完了待ちの削減などにつながったという。

 検証結果を受け、日立GEニュークリア・エナジーと日立プラントコンストラクションの2社は、それぞれが重視している「三現主義」をメタバースが拡張できると考えている。三現主義とは「“現場”で“現物”を見て“現実”を認識する」ことを重視する考え方。今後は、プロジェクトの進捗管理や顧客との情報共有、技術伝承や人材育成への適用を進める。

 進捗管理では、メタバース上に再現した作業現場に、設備の仕様や作業者、プロジェクトに関する種々の情報を登録することで、現場の状況をよりリアルに把握できるようにする。原子力事業のような大規模プロジェクトを安全かつ効率的に進められると期待する。

 顧客との情報共有では、メタバース上で関連データを共有することで、顧客が作業計画や進捗状況などを把握しやすくする。技術伝承/人材育成では、メタバース上で作業現場を見ながら、熟練者が指導し、より効果的に知識やノウハウを習得できるようにしたい考えだ。

 検証環境としては、日立製作所が開発した「現場拡張メタバース」のプロトタイプを使用した。現場拡張メタバースは、現場で起こっている事象の5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)をメタバースとして再現するためのプラットフォームである(図2)。

図2:「現場拡張メタバース」では、現場の5W1Hをも再現し、より実態に近い情報共有を可能にする

 メタバースとして、画像・映像・文書・音声・IoT(Internet of Things:モノのインターネット)データのほか、専用のスマートフォン用アプリケーションで取得する位置情報や、作業着型センサーによる行動データを収集・蓄積する。データは、Webブラウザから検索したり、生成AI(人工知能)技術を使った対話形式で抽出したりができる(図3)。検索では、データへのアクセス速度を高めるためのAI技術を利用している。

図3:メタバース上のデータは自然言語を使った検索ができる

 日立は今後、エネルギーや交通など種々の分野で企業と連携し、現場拡張メタバースの効果を検証していく。

 日立によれば、産業分野でメタバースを利用するためには、収集するデータに、現場のどこで取得されたのか、どの設備・機器に関するものかなど、実空間と紐づける情報が必要なほか、遠隔地にいる関係者がリアルタイムで閲覧・議論できる環境も要る。

 しかし多くの現場では、データが十分に収集できない、実体と紐づけられていない、必要なデータに効率良くアクセスできない、データの閲覧にVRゴーグルや高性能PC、専用ソフトウェアなどの機材とそれを使いこなせる人材が必要などが課題になっているという。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名日立GEニュークリア・エナジー、日立プラントコンストラクション、日立製作所
業種製造
地域茨城県日立市(日立GEニュークリア・エナジーの本社)
課題原子力発電所の移設工事など、大規模かつステークホルダーが多いプロジェクトにおいて、「三現主義」を重視した業務環境の効率を高めたり技能の継承を図りたい
解決の仕組み現場の5W1Hを再現できるメタバースを利用し、遠隔地を含め、関連部署および顧客との情報共有や意思疎通を図る
推進母体/体制日立GEニュークリア・エナジー、日立プラントコンストラクション、日立
活用しているデータ画像・映像・文書・音声・IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などの現場データ、専用スマホアプリで取得する位置情報、作業着型センサーで取得する行動データなど
採用している製品/サービス/技術「現場拡張メタバース」(日立製作所製)
稼働時期2023年7月〜8月(現場拡張メタバースのプロトタイプを使った検証期間)