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カシオ計算機、3Dデータを開発部門と生産部門が共有し生産時の不具合を設計段階で検証

カシオ計算機 デジタルイノベーション本部 シニアオフィサーの矢澤 篤志 氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年8月27日

3Dデータ活用の取り組みを全工場に広げ、市場品質の改善を図る

 山形カシオにおける現在の取り組みの中心は、3D(3次元)データの活用にある。3D CAD(コンピューターによる設計)データを、素材から製品完成までの加工プロセスを設計する工程設計や生産工程ラインなどのシミュレーションなどに利用する。「2000年代から山形カシオが独自に取り組んできた自動化の仕組みを、全事業で使えるようなプラットフォームにする」(矢澤氏)のが目的だ。

 既に楽器の新製品の立ち上げ時には、仮想の組み立てラインを3Dデータを使って構築しシミュレーションを実施し、開発から生産までのプロセスを検証している。「そこで問題が発生すれば、製品を市場に出す前に潰し込むことが立ち上げ段階の命題」(矢澤氏)だからだ。この検証には、開発部門と生産技術部門が協働して取り組む。「生産技術部門が設計の不具合を発見した際は、それ以降の工程には進めないようにして設計を手直しする」(同)

 最も効果を上げたと矢澤氏が強調するのが「市場品質の改善」である。市場品質とは、製品発売後の修理や製品交換などの比率を指す。「海外生産でのEMS生産比率が高まった際は、市場品質の悪化が大きな問題だった」(矢澤氏)。それが、事前検証の仕組みが整い、実際に楽器事業で市場品質の数値に改善がみられたことで、「各事業部長や開発長の理解が得られ、彼らのトップダウンで仕組みを横展開できるようになった」(同)という。

 事前検証では、それまで開発部門の専任者に限っていたCAE(Computer Aided Engineering:コンピューター支援設計)を、生産技術部門も利用するようにした。例えば、主力製品である腕時計「G-SHOCK」の生産では、「耐衝撃・耐防水性のために精密な機構が必要だが、生産技術部門からみた金型の不具合などをCAEを駆使した指摘などが性能強化に役立っている」と矢澤氏は強調する。

製造プロセスの上流から下流まで3DデータをPLMで連携・活用する

 開発・生産の連携をさらに強化するためにカシオは、PLMの改革をDXの柱に据え、製品設計データの全社共有基盤の構築を目指している。そこでは、(1)CADツールの統一、(2)設計・生産情報の一元管理、(3)販売・マーケティングへの連携の3つを目的に挙げる(図2)。

図2:カシオはPLMを基盤に製品設計データの全社共有を目指す

 PLMシステムには「TeamCenter」(独シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア製)を採用し、3D CADデータやCAD-BOM(CAD-Bill Of Materials:CAD部品表)、設計の変更履歴などを管理する(図2)。これらデータは生産管理システム「COLMINA」(富士通製)と連携し、工程の進捗管理や製造指示に利用する。

 設計情報は、E-BOM(Engineering Bill Of Materials:設計部品表)と連携させ、設計変更の影響範囲を把握することで手戻りを削減する。「設計の3Dデータ活用はリードタイムや原価の改善にもつながっている。今後は、生産や品質管理など下流の組織でも利用できるようにするのが課題だ」と矢澤氏は話す。

 例えば生産領域では、「用意したツールがカバーしていない見積もり作成や原価計算などに対し、ローコード開発ツールやSaaS(Software as a Service)アプリケーションなどで内製する」(矢澤氏)考えだ。最終的には「サプライヤーにまで、図面や3Dデータが一気通貫につながるようにする」(同)という。

 3Dデータの販売・マーケティングへの利用は、「PLM改革のゴールだ」と矢澤氏は話す。「3Dで作った製品情報を、顧客エンゲージメントを高めるコンテンツ作成などにも活用できるよう発展させていく」(同)と意気込む。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名カシオ計算機
業種製造
地域東京都渋谷区(本社)
課題製品の市場品質(製品発売後の修理や製品交換などの比率)を高めたい
解決の仕組み開発・生産部門が協働し、設計段階から生産段階の不具合の有無を検証し、設計時に不具合を解消する。そのために3Dデータの全社共有基盤を整備し、3Dデータの全社活用を推進する
推進母体/体制カシオ計算機
活用しているデータ製品の3D設計データ、図面データ、BOMなど
採用している製品/サービス/技術PLMシステム「TeamCenter」(独シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア製)、IoT基盤「ThingWorx」(米PTC製)、生産管理システム「COLMINA」(富士通製)
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