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カシオ計算機、3Dデータを開発部門と生産部門が共有し生産時の不具合を設計段階で検証

カシオ計算機 デジタルイノベーション本部 シニアオフィサーの矢澤 篤志 氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年8月27日

カシオ計算機は、製品の品質をより高めるために、3D(3次元)データ活用を推進し、開発部門と生産部門の連携を深めている。同社デジタルイノベーション本部 シニアオフィサー 開発・生産領域DX担当の矢澤 篤志 氏が「CYBERNET Solution Forum 2024 - DX Day」(主催:サイバネットシステム、2024年7月)に登壇し、3Dデータの共有基盤や活用ビジョンについて話した。

 「2020年のコロナ禍を機に、開発部門から生産部門、営業・マーケティング部門までが、抜本的に顧客に近い活動をしていく必要に迫られた。グローバルに顧客とつながるために、組織ごとの最適化から全体の最適化につながるDX(デジタルトランスフォーメーション)を経営の柱に打ち出した」――。カシオ計算機 デジタルイノベーション本部 シニアオフィサー 開発・生産領域DX担当の矢澤 篤志 氏は、同社におけるDXの位置付けを、こう説明する(写真1)。

写真1:カシオ計算機 デジタルイノベーション本部 シニアオフィサー 開発・生産領域DX担当の矢澤 篤志 氏

 カシオ計算機は、時計や楽器、電子辞書、電卓など生活者向け製品を製造・販売している。2023年の売上高を地域別に見れば、日本は約2割で、残りの約8割は北米と欧州、アジアなどで構成されるなど、海外売上比率が高い。

 矢澤氏は現在、全社最適化に向けたDXプロジェクトを、IT部門と現場を統率しながら進めている。「工場などの現場は、どの企業もデジタル化に取り組み一定の結果を挙げてきている。だが、その取り組みを海外を含めた全体最適につなげていくことに難しさを感じている」(同)と話す。「日本の製造業は伝統的に開発・生産の現場が強く、日本ならではのフレームワークに沿って現場の改善による進化を続けてきた」(同)からだ。

山形カシオをマザー工場にモデルケースを全工場へ広げる

 カシオは2000年から、経営と現場を垂直統合するためにERP(Enterprise Resources Planning:企業資源管理)システムを整備してきた。それに並行して進めるのが、「開発から生産、運用までにデジタル技術を用いるデジタルエンジニアリング」(矢澤氏)だ(図1)。そのデジタルエンジニアリングにおいて各部門を水平統合していくためにPLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)システムを導入している。

図1:カシオ計算機が掲げる「デジタルエンジニアリング」の概要

 デジタルエンジニアリングを進める理由を矢澤氏は、こう説明する。

 「製品やサービスの開発プロセスにおいて、1980年〜1990年代は生産機能の海外比重を高めてきた。それに伴い増加していたEMS(Electronics Manufacturing Services:電子機器の製造受託)生産を、OEM(Original Equipment Manufacturing)としての生産体制に切り替えるという構造改革に踏み切った。当時の円高進行と海外工場の稼働率の低さも重なった」

 新たな生産体制として、山形カシオ(山形県東根市)を、生産システムや技術開発の拠点となるマザー工場に位置付ける。主に「開発部門と生産部門が一体になり、製品の立ち上げ段階で事前検証を実施する『フロントローディング』を強化し品質改善を図る」(矢澤氏)のが目的だ。

 山形カシオは現在、国内唯一の生産拠点である。そこで成功した事業を国内外の全工場に展開し、山形カシオから技術支援する。例えば山形カシオは、他工場にある楽器の自動組み立て設備の稼働状況を一元的に監視している。監視の仕組みはIoT(Internet of Things:モノのインターネット)基盤「ThingWorx」(米PTC製)を使って開発した。矢澤氏は、「2017年に構想し、山形カシオでPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施した。1年ほどで中国やタイの工場に展開できた」と話す。