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JR西日本、建設工事技術者の技能継承に向けた生成AIシステムを実証実験
JR西日本(西日本旅客鉄道)は、工事担当者が持つ技能継承を目的に、既存文書を検索するための生成AI(人工知能)システムの実証実験を実施した。蓄積している文書間に生じる表記のゆれなどを吸収し、求めているノウハウを参照できるかどうかを検証した。システム構築を支援したSBテクノロジーが2024年12月19日に発表した。
JR西日本(西日本旅客鉄道)が実証実験したのは、同社の鉄道建設部門が保有・蓄積してきた建設・工事関連文書から、必要な情報を得るための生成AI(人工知能)システムの検索精度(図1)。熟練の工事担当者が持つ技能の継承が目的だ。2023年12月から2024年3月にかけて実施した実験では各種文書の分類や、分類に基づく回答文の生成内容などで一定の有用性を確認できたという。
検索対象は、ストレージサービスの「Box」(米Box製)上に保管する業務規程や過去の事故情報や施工計画など約6万ファイル。自然言語ベースで検索し、検索した関連性のある文書ファイルを元に回答文を生成する。
実証実験の中心は、生成AI技術の精度を高めるためのRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)機能の開発である。検索方法として、(1)ベクトル検索とキーワード検索を組み合わせたベクトル・ハイブリット検索、(2)単語やフレーズではなく意味や文脈を理解して検索するセマンティック検索、(3)検索のために生成した仮想的な文書をベクトル変換し類似性の高い文書を検索するHyDE(Hypothetical Document Embeddings:仮の文書の埋め込み)の3つを開発し検証した。
対象のドキュメント数やコンテキスト数などをパラメータに、それらを変更することで生成AIシステムの回答傾向を調整した。検索対象の文書からは、個人情報を自動で削除できるようにしたほか、回答の引用元を示す関連ドキュメントの提示、文書の内容理解を容易にする文書タグも生成した。各種機能の開発にはアジャイル(俊敏な)開発手法を用い、機能の追加・改善を繰り返したという。
生成AIには「Azure OpenAI Service」(米Microsoft製)を利用した。セキュリティ対策としてプライベートネットワーク構築サービス「Azure Virtual Network」(同)を利用し、ネットワークを分離している。システム構築は、SBテクノロジーが支援し、1カ月をかけた。
これまでもJR西日本は、鉄道や技術ノウハウに関するデータをBoxに蓄積してきたが、データ量が増えるに伴い検索の手間が負担になってきた。結果、文書を参照できず、熟練技術者の経験や知見に頼らざるを得なかった。今後は、SBテクノロジーが持つMicrosoft製品やセキュリティに関する知見を生かしながら、機能の向上を図っていく。
JR西日本は「JR西日本グループデジタル戦略」として、顧客体験、鉄道システム、従業員体験の再構築の3つを掲げ、データ活用基盤を整備している。今回の実証実験は従業員体験再構築の一環である。
企業/組織名 | JR西日本 |
業種 | 公共 |
地域 | 大阪市北区(本社) |
課題 | 技術継承のためにクラウド上に保管している鉄道の建設関連文書から必要な技能を素早く引き出せるようにしたい |
解決の仕組み | 生成AI技術を用いて過去の業務文書や施工履歴などのデータから回答を作成する |
推進母体/体制 | JR西日本、SBテクノロジー |
活用しているデータ | 鉄道建設工事に関する業務規程や過去の事故情報・施工計画などのデータ |
採用している製品/サービス/技術 | ストレージサービス「Box」(米Box製)、生成AIサービス「Azure OpenAI Service」(米Microsoft製)、プライベートネットワーク構築サービス「Azure Virtual Network」(同)、クラウド基盤「Microsoft Azure」(同) |
稼働時期 | 2023年12月~2024年3月(実証実験の期間) |