• UseCase
  • 流通・小売り

カクヤスグループ、酒販から物流への事業転換で配送効率を30%向上へ

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年6月16日

酒類の宅配のために独自の配送網を築いてきたカクヤスグループが、そのラストワンマイル配送を武器に酒類販売から物流へと大きく舵を切る。自社開発してきた配送管理システムの機能強化を図る。同時に、M&A(企業の統合・買収)による物流基盤と商品カテゴリーの拡大にも取り組む。社名も「ひとまいる」に変更する。

 「かつて最大7兆円あった酒類販売市場は3兆円台にまで落ち込み、従来と同じ戦い方では生き残れない。今後は、自社配送網を生かしたラストワンマイルの“お届け”に磨きをかけるとともに、物流を軸とした事業に転換していく」−−。カクヤスグループ 取締役会長の佐藤 順一 氏は、事業の再編・転換への決意を、こう語る(写真1)。

写真1:カクヤスグループの取締役会長である佐藤 順一 氏(中央)と代表取締役社長 兼 CEO(最高経営責任者)の前垣内 洋行 氏(右)、カクヤス デジタルイノベーションセンター管掌 取締役 飯沼 勇生 氏(左)

 その決意をもって社名も「ひとまいる」に2025年7月1日付けで改める。新社名について佐藤氏は「当社社員がご自宅まで“参ります”ということと、顧客への”ラストワンマイルを任されている”という2つの意味を込めた。『地域の暮らしの、どんな小さな願いも叶えていく』ことを事業目的にしていく」と説明する。

 カクヤスグループはこれまで、酒類販売のカクヤスを中核に、直営店「なんでも酒やカクヤス」を東京23区を中心とした首都圏や大阪府などで展開してきた。飲食店と家庭の双方に酒類を店舗販売すると同時に配送も自社で手掛けている。売上構成は2025年3月末時点で飲食店向けが約7割、家庭向けが約3割である。

 マーケットの縮小に対し、これまでは「配達方法で差別化を図ってきた」と佐藤氏は話す。自社で配送網を整備し、自前のドライバーと配送拠点を使って配達する。各地域にある直営店は小型の出荷倉庫としても利用し「東京23区間ではビール1本でも1時間内に無料で配送するという『クイックデリバリーモデル』が構築できた」(同)

開発した配送管理システムを利用して物流プラットフォーム構築を目指す

 このクイックデリバリーモデルを武器に今後は、このモデルをベースに、他社の商品も配送する物流事業として拡大する。そのために自社開発してきた配送管理システムを改修し、複数の拠点から複数の顧客へ届けるモデルを実現する(図1)。従来は、1拠点ごとに配達エリアを定め、1人の担当ドライバーが1時間ごとにピストン輸送してきた。

図1:配送管理システムを改修し配送ルートなどを最適化できるようにする

 具体的には、注文内容に応じて、最適な店舗と数量、人員、車両、ルートを割り振れるようにする。そのために数理最適化技術を利用する。同社のデジタルイノベーションセンターを管掌する取締役の飯沼 勇生 氏は「点在する拠点と配送先を1つのネットワークとして捉え、1対1ではなくn対nの配送を実現する。理論上では配送効率を30%高められる」と自信を覗かせる。

 並行してM&A(企業の統合・買収)により物流業としての機能強化を図る。その一環として2024年に、食品宅配の大和急送を買収。カクヤスグループの物流センターを「大和急送社内物流センター」(東京都大田区平和島)に移管し、物流ハブとした(図2)。

図2:カクヤスグループの事業再編による物流機能の変化の概要

 カクヤスグループ 代表取締役社長 兼 CEO(最高経営責任者)の前垣内 洋行 氏は「買収によりグループ外の荷物も配送するためのノウハウを獲得できた。外部環境は厳しいが、あらゆるニーズに応える地域特化型の物流プラットフォームへの再編を成し遂げ、持続的な成長をしていきたい」と力を込める。

 既に運送事業の許認可を得ており、「物販収入だけでなく、配送による運賃収入を得るビジネスモデルに転換」する(前垣内氏)。そのために物流ハブも増床し、他社商品を受け入れるための空き時間やスペースを確保する。配送余力としては「既に30%を確保している」(同)という。

 酒類以外も扱うために2021年に買収した乳製品の定期販売を手掛ける明和物産において、食材や調味料なども扱っていく。前垣内氏は「酒と食材とを同じプラットフォームで注文・配送できるため、飲食店が必要とする商材がワンストップで届くようになる」と強調する。「別カテゴリーの販売会社もM&Aで組み込んでいく」(同)考えだ。

DX推進に向けたデジタルイノベーションセンターを設立

 事業転換のための鍵の1つを握るシステムの開発は、2024年にDX推進のために設立したデジタルイノベーションセンターが担当する。同センターは、DX推進部とデータ活用推進部を持っている。

 DX推進部には、物流や営業、店舗などの現場経験者を集めており、「現場に精通したエキスパート」(飯沼氏)としてプロジェクトに当たる。データ活用推進部には「データに長けたエキスパートを現状は外部から採用」(同)したうえで、データ基盤やAI(人工知能)技術などを使ったアプリケーションを開発する。

 データ活用推進部は基幹システムの刷新にも着手する。オンプレミス環境で稼働する基幹システムをクラウド環境に移行し、SaaS(Software as a Service)の利用やAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)による外部サービス連携を容易にする。飯沼氏は「事業環境の変化に即応できるようスクラッチ開発などに対応できる柔軟性を確保したい。現場が使いやすく、実際に使ってもらえるサービスを積極的に導入していく」とする。

 対顧客向けには、注文に対し対話形式で応答する「AIオペレーター」の実装に取り組む。飯沼氏は「顧客の利便性を高め、注文時の待ち時間をゼロにしたい。オペレーターの労働力不足により、5〜10年後にも電話対応できるのかという危機感もある」と、AIオペレーターに期待する。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名カクヤスグループ
業種流通・小売り
地域東京都北区(本社)
課題酒類市場の縮小に伴い、酒販事業に変わる成長戦略として物流事業中心へと事業転換したい
解決の仕組みラストワンマイルの配送を実現してきた自社配送網の機能を強化し、他社の商品も配送できるようにする
推進母体/体制カクヤスグループ
活用しているデータ配送実績、注文データ、拠点の在庫情報など
採用している製品/サービス/技術「配送管理システム」(カクヤス製)、スマートフォンアプリ「カクヤス公式アプリ」(同)
稼働時期--