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日立・大みか事業所、社会インフラ用制御システムの品質保証業務にAIエージェントを導入へ

ANDG CO., LTD.
2025年7月10日

日立製作所は、大みか事業所(茨城県日立市)が担う社会インフラを対象にした制御システムの品質保証業務に、熟練者の知見を学習したAI(人工知能)エージェントの導入を進める。そのために、まず鉄道システム分野を対象にした実証実験を実施した。機器の故障やトラブルが発生した際の問い合わせ業務に利用する。顧客対応の迅速化と若手技術者の即戦力化を図るのが目的だ。2025年6月26日に発表した。

 日立製作所の大みか事業所(茨城県日立市)は、鉄道システムや電力、上下水道といった社会インフラの制御システムを開発・提供している。同事業の品質保証業務における障害発生時の問い合わせ業務に対し、熟練技術者の知見を学習したAI(人工知能)エージェントを導入する(図1)。機器の故障やトラブルが発生した際の問い合わせ対応業務の効率を高めるとともに、経験の浅い技術者も携われるようにするのが目的だ。

図1:日立製作所・大みか事業所が品質保証業務に導入するAIエージェントの位置付け

 AIエージェントは、大みか事業所が蓄積してきたOT(Operational Technology:制御・運用技術)システムの保守履歴やトラブル事例、技術ノウハウなどの情報を集めたデータベースを参照し動作する。

 そのために品質保証業務の熟練技術者へのヒアリングを重ね、トラブル対応時の思考手順を抽出して言語化した。それをプロンプトに利用し、原因の特定や検証方法を論理的に導き出す。出力結果を継続して評価することで模範的な問答集を100件以上作成し、生成AIによる出力精度を実用水準にまで高める。

 本格導入に先立ち、鉄道システム事業を対象にした実証実験を2024年10月から2025年3月にかけて実施した。(1)トラブル傾向の分析、(2)トラブル事例の検索、(3)レポート作成の3業務に適用したところ、それぞれで大幅な時間短縮が確認できたとしている。

 トラブル傾向の分析では、鉄道システムの故障・トラブルの傾向や特徴量を抽出・分析するAIエージェントを検証したところ、分析時間を8割以上削減できたという。分析結果はシステム開発にフィードバックすることで品質向上につながる。

 トラブル事例を検索するAIエージェントは、例えば「信号機故障の事例は」などと自然言語で質問すれば、現在発生している事象に最も関連する事例を検索する。検索時間を約9割削減できたという。

 レポート作成のAIエージェントは、技術者が客先のトラブル状況などをインプットすれば、発生初期段階に提出するレポートの下書きを作成するもの。レポート作成時間を8割以上短縮できたとしている。

 今後は、2026年度を目標に、電力や上下水道などの制御システム部門を含め、大みか事業所全体の品質保証業務にAIエージェントを展開する。将来的には、システム開発時の設計・製造・試験などの他工程への適用や、製造業の顧客に向けたサービスとしての提供も視野に入れる。

 実証実験のためのAIエージェントは、AI技術やAIエージェントの専門家を集めた「Generative AIセンター」に所属するデータサイエンティストなどが開発した。ヒアリングから熟練者の暗黙知を生成AIのプロンプトに落とし込み、改善・評価、チューニングをすることで品質保証業務を支援できるようにしたという。

 日立によれば、OTシステム分野では、品質の安定化や技術の継承が課題になっている。顧客の業務に合わせてカスタマイズされ、10年以上の長期稼働が一般的なため、運用中に発生したトラブルや問い合わせ情報が膨大になり、過去事例の検索や再利用が難しい。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名日立製作所・大みか事業所
業種製造
地域茨城県日立市(大みか事業所)
課題社会インフラを支える制御システムは、顧客業務にカスタマイズされ、かつ長期稼働が一般的なため、保守関連情報が膨大になり、検索性や再利用性が悪く、熟練技術者の経験・ノウハウに頼らざるを得ない
解決の仕組み保守履歴や過去のトラブル事例に加え、熟練技術者へのリアリングにより実際にトラブル対応する際の思考手順を形式知化したうえで、同情報を利用して動作するAIエージェントを開発・利用する
推進母体/体制日立製作所・大みか事業所、日立Generative AIセンター
活用しているデータヒアリングより抽出した熟練技術者の暗黙知や技術ノウハウ、保守履歴、トラブル事例など
稼働時期2024年10月〜2025年3月(鉄道システムを対象にした実証実験期間)