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川崎重工業、100万点におよぶ船舶部品を単品管理し船舶分野のDXを推進
「Aras Connect Japan 2025」から、川崎重工業 坂出造船工場 プロセスイノベーション部の渡邉 高志 氏
川崎重工業は、船舶・海洋機器の製造拠点である坂出工場(香川県坂出市)で、100万点にも及ぶ船舶部品の管理を、これまでの一式単位から部品単位に切り替えるなど生産性向上につながるDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。同社エネルギーソリューション&マリンカンパニー 船舶海洋ディビジョン 坂出造船工場 プロセスイノベーション部PI二課 基幹職の渡邉 高志 氏が「Aras Connect Japan 2025」(主催:米Aras日本法人、2025年6月)に登壇し、部品管理の効率化に向けたPLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)システムの導入成果や現場での活用上の工夫などを紹介した。
「船舶の部品点数は100万点に及ぶ。一般に車の部品点数は約3万点だ。これほど大量の部品データを扱うことが船舶分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を困難にしていた」--。川崎重工業 エネルギーソリューション&マリンカンパニー 船舶海洋ディビジョン 坂出造船工場 プロセスイノベーション部PI二課 基幹職の渡邉 高志 氏は、こう話す。
川崎重工業の起こりは、1878年に川崎 正蔵 氏が東京・築地に作った造船所である。現在は、車両や航空宇宙システム、パワースポーツ&エンジン、エネルギー・プラント・舶用推進、精密機械・ロボット、マリンなどの事業をグローバルに展開する。グループ全体の売上高は約1兆8000億円、従業員数は約4万人、連結子会社数は105社である。
渡邉氏は2010年に川崎重工に入社し船装設計課で配管設計を担当した。2017年に設計管理課に異動し、設計業務の効率を高めるためのシステム開発に携わる。その経験から2021年、坂出工場(香川県坂出市)のプロセスイノベーション部の創設メンバーに選ばれた。現在は「DXによる工場の生産効率を高めることを命題にシステム開発に取り組んでいる」(渡邉氏)
一式での部品管理が船舶製造の効率を下げていた
坂出工場では船舶・海洋機器を製造している。「受注生産である船舶に同じ製品は2つとない」(渡邉氏)。その船舶の部品はBOM(Bills Of Materials:部品表)で管理する。
だが、坂出工場ではこれまで「部品単位ではなく、機器一式などセット単位にする一式品で管理してきた。ただ、これは発注者の都合に合わせた方式であり、現場で扱う単位ではないため『扱いづらい』という声が上がっていた」(渡邉氏)という。
一式品管理の最大の課題は製造現場の生産効率が高まらないことである。渡邉氏は「(1)属人化、(2)部品手配、(3)情報連携の3つの観点で効率化を妨げている」とする。
●属人化 :部品がセット品として届くため、各部品が何の部品なのかを担当者がメーカーの図面や設計図と見比べて判断している。特定の作業員のスキルに依存しており、新人は図面を読み解くための勉強が必要になる
●部品手配 :建造期間が長いプロジェクトでは、部品がセット品として発注され、すぐに使う部品と1年後に使う部品が同時に届く。長期保管により「1年後に使おうとしても部品が錆びて使えないなど品質劣化が起こることもある
●情報連携 :部品に共通の管理番号がなく、設計・調達・製造の各部門間での効率的なコミュニケーションが難しい。部品を特定するため図面でいちいち指し示す必要があった
PLMシステムを導入し現場が望む部品単位の管理へ移行
これらの課題を解決するためにプロセスイノベーション部が取り組んだのが、BOMを部品単位で管理することによる坂出工場の生産性向上だ。
だがBOMを部品単位に変更するに当たっては「3つの課題があった」と渡邉氏は明かす。(1)設計・調達・現場の仕事のやり方を変えること、(2)BOMに対応したシステムを構築すること、(3)部品単位で管理するために従来より大量のデータを扱うこと、である。
これらの課題のうち、(2)と(3)の課題解決については「PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)システムの『Aras Innovator』(米Aras製)が使えるのではと上司から相談された」(渡邉氏)という。本当に使えるのかArasの日本法人であるアラスジャパンが実施する講習を受講し「これは使える」と実感し、その採用を決めたという。