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荏原製作所、技能継承に向けゲーム関連技術を使ったメタバースと教育システムを試験導入

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年8月1日

荏原製作所は、技能継承を目的に同社藤沢工場(神奈川県藤沢市)においてメタバース(3次元の仮想空間)と教育システムの試験導入を進めている。ゲーム関連技術を利用し、デジタルツインに熟練者の暗黙知を加えた「デジタルトリプレット」を3D(3次元)空間に再現する。若手人材の育成を加速する。将来的な全社展開や外販も視野に入れる。2025年7月30日に発表した。

 荏原製作所は藤沢工場(神奈川県藤沢市)において、技能継承を目的としたプロジェクト「EBARA-D3」の試験導入に2025年から取り組んでいる。全社的な教育体系の標準化を進め、適切な人材配置や従業員の成長計画の策定に利用したい考えだ。従来の人材育成は現場のOJT(On the Job Training)やマニュアルに依存していた。それを個人に最適化したデジタル教育プログラムに転換する。

 EBARA-D3の特徴は、工場設備などのデジタルツインに、熟練者の暗黙知などを加えた「デジタルトリプレット」をベースにしていること。デジタルツインだけでは再現が難しい作業者の判断や暗黙知などの非構造化データを取り込むことで、製造現場をよりリアルに可視化・共有化を可能にする(図1)。

図1:荏原製作所が独自開発した工場のメタバース空間の例

 EBARA-D3は大きく、メタバースの「Beyondverse(ビヨンドバース)」と教育システム「DOJO(ドウジョー)」からなっている。Beyondverseでは、ゲームエンジン技術を利用し、工場設備や台車、人の動きを3D(3次元)モデルで構成し、メタバース上に再現する(図2)。

図2:メタバース「Beyondverse」上に再現した荏原製作所・藤沢工場の例

 Beyondverseを荏原製作所は、工程の可視化や作業動線の検証、設備導入に向けた事前評価などに利用する。加えて、メタバース上の動きから作業の遅延や滞留、異常動作といった課題をAI(人工知能)技術で検出し、品質管理とコストの改善を図る。

 一方のDOJOは、3DデータやVR(Virtual Reality:仮想現実)コンテンツ、テキストなどを教材とする教育システム(図3)。熟練者の手や体の動きをセンサーと映像で記録し、AI技術で解析して教材にまとめた。進捗状況のスコア化やランキング、達成ステージなどゲーミフィケーション技術を使った仕掛けにより、継続的な学習と技能の定着を促す。作業者1人ひとりのスキル情報をデータベースとして管理する。

図3:教育システム「DOJO」では熟練者の動きをセンサーと映像からデータ化し3Dコンテンツとして提供する。画面は作業姿勢評価アプリの例

 EBARA-D3は、荏原グループの中期経営計画およびESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)重要課題への取り組みの一環。今後は国内の他事業所への展開を予定する。加えて、技能伝承の課題を共有する他社との共同開発や連携も視野に、EBARA-D3の外販やSaaS(Software as a Service)化も検討している。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名荏原製作所
業種製造
地域神奈川県藤沢市(藤沢工場)
課題熟練者の技能を継承し若手人材の早期戦力化を図りたい
解決の仕組みデジタルツインに熟練者の暗黙知などを加味した「デジタルトリプレット」を構築し、工場の実態をメタバース上に再現し、作業者の動きや判断をデジタルで記録・分析できるようにする。熟練者の動きを3Dモデル化したコンテンツを提供できる教育システムにより継続的な学習と技能の定着を図る
推進母体/体制荏原製作所
活用しているデータ工場の設備や台車、人の動きを示すデータ、熟練者の動きを示すセンサーデータや映像、作業員1人ひとりのスキル情報、教育履歴など
採用している製品/サービス/技術メタバース「Beyondverse」(荏原製作所製)、教育システム「DOJO」(同)、ゲームエンジン、ゲーミフィケーション技術
稼働時期2025年(藤沢工場への試験導入開始時期)