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JR西日本、駅構内や作業現場の安全確保を支援する映像解析サービスを開発

DIGITAL X 編集部
2025年9月9日

JR西日本(西日本旅客鉄道)は、沿線工事での見落としリスクや店舗での来店者分析などに利用できる画像解析サービスを開発した。従来サービスに生成AI(人工知能)モデルの1つであるVLM(Vision Language Model:視覚言語モデル)を組み合わせ、学習外の状況にも対応できるようにしたという。鉄道事業に関連する種々の業務を対象に、業務改善と効率向上に利用する。2025年8月20日に発表した。

 JR西日本(西日本旅客鉄道)が開発したのは、危険な状況などを、その対象物だけでなく周囲の状況からも判断する画像解析サービス。これまで提供してきた駅構内や作業現場の異常を検知する画像解析サービス群「mitococa(ミトコカ)」に追加する。mitococaに生成AI(人工知能)モデルの1つであるVLM(Vision Language Model:視覚言語モデル)を組み合わせ、mitococaが抽出した対象をVLMに推論させることで、学習していない未知の状況への対応力を高めたという。

 VLMベースの画像解析サービスでは、自然言語によるプロンプトを入力すれば、画像の解析結果を画像やグラフで表示する。外部機器との連携機能を高めたほか、UI(User Interface)は現場での実用性と操作性に重点を置いたとしている。

 具体的なユースケースとして(1)沿線の建設工事確認、(2)保護具の着用状況検知、(3)店舗の来店者分析の3つなどを挙げる。

 沿線の建設工事確認では、先頭列車にあるカメラ映像から、クレーンや足場など、この先で建設作業が行われているであろうことを示す兆候を抽出する(図1)。工事の見落とし防止や現地確認の負担を軽減する。事前に通知された工事は、添乗社員が目視確認しているが、通知がない場合は見落としや対応遅れのリスクがある。

図1:VLMベースの画像解析サービスで、沿線の建設工事を走行中のカメラ画像から検知する画面例

 保護具の着用状況検知では、現場と作業員の状況を映像からリアルタイムで監視し、一定時間ごとにヘルメット着用の有無を判定する。未着用を検知すると管理者宛てに「不安全検知」「ヘルメット未着用」といった通知を送信する。通知条件は管理画面からプロンプトにより設定する。

 店舗の来店者分析では、mitococaで検出した来店者の属性をVLMで推定し、結果をダッシュボードに表示する。来訪者の傾向を基にした施策の立案と、効果検証の効率化につなげる。

 今後は、列車標識の異常や労災発生状況の検知、工作機械の稼働状況の監視や製造ラインでの不良品判定などへの展開を視野に入れる。

 JR西日本が採用したVLMは、視覚情報と言語情報を統合的に処理できる生成AIモデル。画像とテキストを学習済みで、対象の意味や関連性を理解できるのが特徴だ(表1)。

表1:VLM(視覚言語モデル)と画像解析AIとの違い
観点VLM画像解析AI
特徴未学習の対象にも対応し状況や背景を含めたシーンを理解できる学習済みラベルの検出は高速で高精度
学習方法画像と言語を組み合わせて大規模に学習済みあらかじめ定義したラベルごとに個別に学習
入力画像とプロンプト画像のみ
出力True/Falseや文章などに対応枠やラベルなど定型になる
留意点処理負荷が高く応答に時間がかかることがある新しいラベルは再学習が必要

 JR西日本グループは「長期ビジョン2032・中期経営計画2025」において、「イノベーションによる長期ビジョンの実現」を掲げ、新たな価値創造に取り組んでいる。グループの技術やノウハウを活用した課題解決を目指す「アウトバウンド型のオープンイノベーション」を進めており、mitococaや画像解析サービスの開発はその一環。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名JR西日本(西日本旅客鉄道)
業種交通
地域大阪市(本社)
課題沿線建設工事の見落としや、保護具の未着用など安全上のリスクを減らしたいが、従来の画像解析では未知の工事などへの対応が不十分だった
解決の仕組みカメラ映像をVLM(視覚言語モデル)を用いて解析し、対象物だけでなく周囲の状況も踏まえた判断を可能にすることで、建設作業の兆候や保護具の未着用を自動で検知する
推進母体/体制JR西日本
活用しているデータ駅構内や沿線、作業現場などカメラ映像
採用している製品/サービス/技術画像解析AI「mitococa」シリーズ(JR西日本製)、生成AIモデルとしてのVLM
稼働時期--