• UseCase
  • 製造

総合機械の北川鉄工所、3Dモデルによるデジタル生産目指し全社で2D図面を撤廃

「3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2025」より、DX戦略本部 DX推進室の浅井 孝之 氏と岡崎 純平 氏

森 英信(アンジー)
2025年12月26日

設計・製造の連携に向け3Dモデルをシステムに直結する

 3D化を推進する上で北川鉄工所が重視したのはスキルアップ施策である。それにより3D CADソフトウェアの月間の利用時間は2021年4月の2929時間が2023年10月には1万2042時間と約4倍に増加したという。そこでは「困っている利用者を特定し、社内で作成した講習用マニュアルを使って教育した」(岡崎氏)という。

 しかし、3D CADの利用が拡大した結果、新たな課題としてモデリングの属人化が浮上する。「あるモデルについて特定のメンバーしか扱えない状況が起きた」と岡崎氏は振り返る。そこで、外部講師の協力を得ながらモデルの標準化に取り組んだ。標準化により「それまで1日かかっていた設計作業が半日で完了するなど設計プロセス全体の効率を大幅に高められた」(同)とする。

 システム連携も重要な取り組みだ。SOLIDWORKS PDMとObbligatoを連携するためのアプリケーション「コネクト」を独自に開発した(図3)。コネクトは、3Dモデルの品目情報や構成情報をPLMに自動で登録する。「設計部門はモデルの検索やデザインレビューに、他部門ではCAM、CAT、板金展開に3Dモデルを利用するようになった」と岡崎氏は成果を語る。

図2:3Dのモデルを核としたシステム連携図

 CAMソフトウェアの活用も成果につながっている。部品の穴データに色付けし識別するアプリケーションを独自開発することで「ネジ穴(タップ)やキリ穴などの加工種別を3Dモデル上で判断できるようになった」(岡崎氏)という(図3)。

図3:3D化が穴加工に果たした改善効果

 穴の位置は3Dモデルから直接取得でき「ミス発生の温床になっていた座標資料の作成が不要になった」(岡崎氏)。それにより工数は従来の135時間が60時間に短縮されたるなど「従来に比べて44%、約75時間もの工数削減効果を得られた」(同)

3D化が干渉チェック削減から合意形成の高速化までを果たす

 3Dデータの利用により各部門は次のような成果を得られているとする。

営業部門 :3Dモデルによるプレゼテーションにより、仕様が明確になることで、顧客とのやり取りがスムーズになり仕様決定までの時間が大幅に短縮した

設計部門 :設計工数は増えており改良の余地はあるが、全体医的な設計品質が高まっている。部品同士の干渉に加え、点群データと3Dモデルの照合により既存設備の干渉チェックなどが可能になり手戻りの削減に寄与している

製造部門 :CAMの利用によりリードタイムを短縮。一度作成した工作機械プログラムや刃物選定などの情報を類似製品に適用することで、さらなるリードタイム短縮も見込む。検査工程でも、3Dモデルから検査プログラムを事前に作成することでスムーズな検査につながっている

 現在は「デジタライゼーションによる各業務の最適化やデータ化、リードタイムの短縮に取り組んでいる」(岡崎氏)。さらなる付加価値の創出に向けて「デジタルツインやロボットシミュレーション、さらには工場全体のシミュレーションを視野に入れたDXに取り組んでいる」と岡崎氏は力を込める。

 そのうえで岡崎氏は、3D化を推進するための重要ポイントとして次の6つを挙げる。

ポイント1=「後工程」を見据えたモデリングルールの作成 :加工工程を考慮したモデリングができなければ後工程の自動化にはつながらない

ポイント2=サポート体制の整備 :設計者を迅速にサポートすることが設計者のモチベーションにつながる。北川鉄工所では、代理店が提供するヘルプデスクを利用している

ポイント3=3D CAD推進者の育成 :ベテランは知識は豊富だが操作習得にハードルがあり、若手は経験が不十分である。ITリテラシーの高い中堅社員を任命し、定期的なワーキンググループで課題や知識を共有することが有効だ

ポイント4=図面レスを目的にしない :図面をなくすことはハードルが高い。製缶や溶接など業務によっては3Dモデルだけでは設計の意図が十分に伝わらず2Dの簡易図面を併用すればよい。現場にタブレットを配付し3Dモデルでの寸法の確認方法を教えたり、大型モニターを設置し情報を共有したりすることで、生産現場での2Dの簡易図面の扱い方を標準化する

ポイント5=部門の理解を得る :3D CADで高品質なモデルを作成するには時間がかかることを経営層や各業務部門にも理解してもらう。3D化のメリットをしっかりと共有する

ポイント6=変化への意識 :2D CADが存在する3D化は推進できない。変化への意識を持つことが必要不可欠である