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  • 世界経済フォーラム(WEF)発、グローバルに見るデジタルを前提にした未来地図

世界の現在地は“複合危機”の真っ只中にある【第1回】

本田 希里子(世界経済フォーラム ビジネス・エンゲージメント統括(日本))
2026年4月17日

毎年、スイス・ダボスで開かれる世界経済フォーラム(World Economic Forum)の年次総会は2026年、56回目を迎えた。今回は「対話の力(A Spirit of Dialogue)」をテーマに開催された。戦後の国際社会を支えてきた国連を中心とするルールに基づく国際秩序、自由貿易、民主主義や資本主義経済といった価値観の共有が揺らぐなか、かつてないほど不確実で舵取りが難しい世界情勢下での開催となった。

 2026年の年次総会に先立ち公表された『グローバル・リスク報告書2026』では、短期的には異常気象よりも、地政学的・社会的分断が大きなリスクとして浮上した(図1)。

図1:『グローバル・リスク報告書2026』が指摘する短期的・長期的リスクのトップ10

 地政学的・社会的分断について、年次総会の締めくくりとなる「グローバル・エコノミック・アウトルック」のセッションにおいて、IMF(International Monetary Fund:国際通貨基金)のクリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事が「世界をありのままに直視する必要がある」と語れば、WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長も「元には戻らない」との認識を示した。

 米国と欧州の間に亀裂が生じていることも明らかになった。それが修復可能なのかどうかについては、会期を通じて、さまざまな意見が交わされた。米ハーバード大学教授で元IMF筆頭副専務理事のギータ・ゴピナート氏は「私たちは100年に一度とも言える国際秩序の崩壊の初期段階にいるのかもしれない」と指摘する。

 EC(European Commission:欧州委員会)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は「過去へのノスタルジーでは旧来の秩序は戻らない。恒久的な変化には恒久的な対応が必要だ」と述べ、戦略的自立を目指す欧州の姿勢を明確にした。

 世界の現在地は「複合危機」の真っ只中にある。地政学的緊張や、経済の分断、社会的分極化、環境危機、エネルギー安全保障、公的債務の増大と人道支援の縮小などが同時に進んでいる。そこにAI(人工知能)をはじめとする急速な技術革新が重なり、政治、経済、社会の前提そのものが揺らぎ始めている。

 会期を通じて浮き彫りになったのは、地政学的な分断とテクノロジーの急速な進化が同時に進む世界の新たな力学だ。AI、量子コンピューティング、次世代バイオテクノロジー、新たなエネルギーシステムといったフロンティア技術は、新たな成長の原動力である。

 だが一方で、人間性や雇用、社会的包摂への影響について、さまざまな議論が交わされ、経済成長の再定義、社会的結束、そして地球環境の限界を踏まえた繁栄のあり方が共通のテーマとして共有された(写真1)。

写真1:フロンティア技術の人間性や雇用、社会的包摂への影響について、会期中は、さまざまな議論が交わされた