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データ分析にはリスク管理・危機管理が不可欠【第14回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2018年10月29日

ノウハウ2:ハインリッヒの法則を応用する

 ハインリッヒの法則とは、「1件の重大な事件・事故の背景には29件の軽微な事件・事故があり、300件のヒヤリ・ハットした事象がある」というものだ。データ分析において一番知りたいのは、特異点や変曲点である。この周りに29件の違和感があり、さらにその周りに傾向値が300もある(図2)。

図2:ハインリッヒの法則を応用

 分析しても、なかなか特異点は見つからないが、違和感を感知するセンスは大切だ。違和感とまではいかなくても傾向を知ればよい。これまで分析方法を述べてきたのは、傾向や違和感、そして特異点を見いだすためだ。実際に29や300という数値は、分野によって相違してくるが、その黄金比を発見するための分析方法を知らねばならない。

 関連して「合成の誤謬」という言葉がある。個別に見ると正しくても全体では正しくないといった逆説的な現象を言う。300の傾向値の1つひとつにこだわり過ぎると、本質を見失う可能性もあるので注意したい。

 リスク管理・危機管理では「ブラックスワン」という理論がある。ありえない出来事、つまり、重大な事件や事故は、次の3つの特徴を持つというものだ。

特徴1:なかなか予測できない
特徴2:起これば非常に強い衝撃を与える
特徴3:いったん起きてしまうと、いかにもそれらしい説明がなされ、実際よりも偶然には見えない、あるいは、あらかじめ分かっていたように思える

 非常に強い衝撃を与える特異点や変曲点を、違和感や傾向をたどって見つけるには、分析、つまり可視化・分類・予測・推論の繰り返しが必要だ。あらゆる角度からデータを切ることで、一見は普通のありふれたデータ群に埋もれている特異点・変曲点を探し出せる。

 ただ、データ分析で予測できる領域と不可能な領域があり、その見極めが大切になる。予知できない分野にお金をつぎ込むぐらいならば、1件の大きな事件・事故が起きた場合への対応策に回したほうが良い。逆に、適切なアルゴリズムがすでに存在し、あるいは、近い将来に見込まれてモデル化できるものは徹底的に分析や対策をする必要がある。

ノウハウ3:データの“トライアングル”を成立させない

 「不正のトライアングル」は、ドナルド・クレッシーという犯罪社会学者が提唱した考え方である「欲望」「正当化」「機会」の3つがそろえば、誰でも不正を犯すというものだ。

 歴史を振り返ってみると、明智光秀は裏切り者の代表のように言われる。しかし、裏切りやすい属性が明智光秀にあった訳ではなく、欲望・正当化・機会が重なった結果、主君を裏切ってしまった。この理論は、犯罪や不正でなくても応用できる。人が物事を決める際には必ず、この3つが存在するからだ。

 たとえば、社会人が退職するかどうかを考えると、欲望の例には「もっと給与の多い会社に行きたい・・・」などが挙げられる。正当化としては「どうせ腰掛で就職した・・・」などが考えられる。そして「理不尽なことで上司に怒られた・・・」というような機会に出会う。それぞれ単独では退職に至らないが、3つが重なると退職する確率は格段に高くなる(図3)。

図3:人に関するデータのトライアングル(例は中途退職の場合)