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メタ分析で隠れた真実をあぶり出す【第35回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2020年6月29日

前回、「メタデータ(metadata)」について、その価値や時系列でメタデータを持つことのパワーを説明した。今回は、メタ分析によって、表面的には見えづらい隠れた真実をあぶり出す方法を最近話題の事例をもって解説する。

 「メタ」という言葉は、データに付くだけでなく、分析にも付加される。「メタ分析」とは、複数の研究による分析結果の分析することである。自らが分析することも大切だが、他の人が分析した結果を複数集めて分析することも重要だ。そのほうが真実をあぶり出すのに役立つし早い。実際、多くの研究は、多数の研究論文の積み重ねで成り立っている。

 本連載では、データ分析の5大アセットである「ヒト・モノ・カネ・ブランド・データ」のそれぞれの分析の重要性を説明してきた。加えて今後は、それら分析で得た結果を紐付けてメタ分析することが求められる。他者が分析した結果をメタ分析しながら、さまざまなメタデータを取り入れ、全体を俯瞰しながら、より高次の分析をしなければならない(図1)。

図1:メタデータとメタ分析が高次の分析につながる

 メタ分析の実際を、近年に話題になった事例を挙げて説明したい。

メタ分析事例1:老後2000万円問題

 老後2000万円問題とは、金融庁の金融審議会がまとめた報告書『高齢社会における資産形成・管理』が、年金のみに頼る無職世帯が老後20~30年を生きるためには約2000万円の資金が必要になるとしたことを発端に、2000万円という数字が一人歩きし、それを準備できる/できないという“格差問題”へと発展した事象である。

 メタ分析として、金融庁の報告書『高齢社会における資産形成・管理』の元になった議事録を分析する。議事録は公開されているので、オープンデータまたは、その前段階のプレオープンデータ(第8回参照)だ。この議事録を、有識者会議(市場ワーキング・グループ)の開催日時による時系列な視点から、第三者が分析した結果がある。

 報告書は2019年6月に公開され、その後、散々議論されているので、現時点で分析すると答え合わせ的になってしまうが、第三者による分析で分かるのは、2016年12月20日以前の前期と、2018年9月21日以降の後期とでは、有識者会議の議題が以下のように明らかに変化している。

前期に特徴的な用語 :アルゴリズム高速取引、公正性・透明性、利益相反、ETF(上場投資信託)など
後期に特徴的な用語 :NISA(少額投資非課税制度)、老後、人生100年時代など
全期を通じて登場 :市場全体・市場間競争、顧客本位・お客様など

 この分析結果をメタ分析してみよう。投資の観点では、とても興味深い内容だが、データサイエンティストの立場とすれば、これを、どう読み解くかが腕の見せ所である。分析方法は、時期に応じて2つのやり方がある。

金融庁の報告書が出た後

 逆問題として分析するしかない(第1回参照)。原因、つまり2000万円の根拠の正当性が分かる。

金融庁の報告書が出る前

 データから順問題として分析できた。結果がどうなるのかを予測する。つまり、本当は老後に、いくら必要なのかが分かる。

 市場ワーキング・グループの開催回での分析では、時期の視点も重要だが、立場が違う発言者のコメントが目を引く。議事録の特徴的な文言を抜き出すと、以下の通りである。

・経営コンサルタントが「3000万円」と発言。「2000万円」は一度もない。ただし、メディアは3000万円という金額も取り上げている。
・「人生100年時代」という言葉で、長い人生でお金が必要と暗示している。
・「iDeCo(個人型確定拠出年金)」が6回、「預貯金」が3回、「自助」が2回、出現している。
・「投信」「投資信託」「ETF」で計50回出現している。

 ここからメタ分析すると、さまざまななことが分かる。「預貯金ではなく、投資信託を積極的に行って欲しいというニュアンスが強い」「NISAやiDeCoを活用してほしい」などだ。手数料の話題も出てくるが、これは消費者市民グループの意見が中心だ。

 つまり全体的には、「年金が足りない」というよりも「投資してほしい」という意図が見える。報告書は違う方向に炎上したが、投資推奨派にとっては成功だったのかもしれない。

 実は、このようなメタ分析の結果が、第25回第26回で説明した、お金の分析の参考になっている。メタ分析を加味したからこそ第27回第29回で示した50代のお金について分析ができた。