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- シアトル発、工藤卓哉のデジタル便り
Amazon Goを実現しているテクノロジーを考える【第3回】
ディープラーニングは、より自動化が進む
さて、ディープラーニングについて詳細説明はしませんが、ディープラーニングで著名なソーク研究所のテレンス・セジュスキー(Dr. Terrence Sejnowski)教授と対話する機会がありましたので、同教授のディープラーニングのビジョンについて少し触れたいと思います(写真2)。
雑談の中で、画像認識に適したディープラーニングをめぐっては、利活用の裾野が今後もさらに広がり、出口がスケールして行く先には何が起こるのかという話題にも話が及びました。それに対しセジュスキー教授は、Googleの機械学習サービス「Cloud AutoML」を例に挙げながら、「ある程度前後したデータを入力すれば自動化が進むようなアルゴリズムに発展するだろう」との見方を説明してくれました。
この進化の方向は、(ディープラーニングだけでなく、ハイパーパラメーターチューニング(損失関数、ニューラルネットワークのレイヤー数)や、データオーギュメンテーション(データ拡張)、パフォーマンスチューニング(ミニバッチ、ラーニングレートなど)にも共通とのことです。
セジュスキー教授の専門は脳科学ですが、データの処理方式も静的なデータ処理ではなく、「複数の動的なデータが関連した出力値の再入力処理が必要になる」とも説明してくれました。その際に例示されたのは、人間が複数の感覚を処理していることであり、冒頭で説明したセンサーフュージョンの概念に近いものです。
技術の未来形を予測しイノベーションにつなげる
Amazon Goが、セジュスキー教授が描く技術動向のすべてを包含したユースケースかどうかは、公開情報のみから断定できません。ただ少なくとも、そうした未来形を意識したイノベーションを実現しようとしていることは確かです。
私のチームは、コンピュータービジョンやディープラーニング、あるいは機械学習による特許申請やイノベーション創出などに注力してきました。しかし、それだけではディープラーニングが花開くことはありません。データサイエンティストがしばしば陥りがちな「PoC(概念実証)貧乏症候群」、すなわち「PoCを繰り返すだけでお金にはならない」といった状況に陥らないことが必要です。
また“面白い”だけで結果が出なければ息が続きません。さらには、本当の意味での社会貢献、コスト削減や売上増に貢献できなければ、それは真の社会的イノベーションとは言えないでしょう。
いずれにせよ、Amazon Goのあるシアトルに足を運んでみてはいかがしょうか?堅苦しい技術用語の海に飲まれることなく、きっと新しい顧客体験を享受できるはずです。店を出るときにお金を払わないことへのドキドキ感を含め、コンビニでの買い物が、こんなに不思議な形で体験できることは画期的です。
次回は、11月下旬にラスベガスで開催予定のAWS(Amazon Web Services)の年次カンファレンス「re:Invent 2018」の舞台から気になる話題をお届けします。私自身がエグゼクティブラウンドテーブルでの司会進行と登壇を予定しておりますので、AWSの先端技術やCEO(Chief Executive Officer)であるAndy Jassy氏の基調講演などについてご紹介します。
工藤 卓哉(くどう・たくや)
アクセンチュア Data Science Center of Excellence グローバル統括、アクセンチュア アプライド・インテリジェンス日本統括マネジング・ディレクター 兼 ARISE analytics Chief Science Officer。