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  • DX時代に不可欠なデータリテラシー入門

データリテラシー文化を持った企業のあるべき姿【第8回】

オリンパスにおけるビジネスへのデータ分析活用への道

吉田 一貫(クリックテック・ジャパン マーケティング本部長)
2020年12月21日

データリテラシーが正しいインサイトを導く

 このようにオリンパスでは、データリテラシー文化を企業として育てています。社員がデータ分析を実践し、それを繰り返すことで、データ分析の高度化・成熟化が進んでいます。「活用が広がると、他部署から『あの部署が使っている、あのツールはなに?(自分たちもやってみたい)』と興味を示し、問い合わせてくるパターンもある」(荻本氏)ようです。

 みなさんの会社/組織ではどうでしょうか。一般にビジネス部門では、業務に必要なデータを表計算ソフトに取り込んで集計し、グラフ化することが日常業務になっているでしょう。例えば、売り上げなら「先月比で○%増加した。だから……」など、集計結果を元に次の施策を考えていきます。ただ、この段階で止まってしまうことが多いのです。

 ここにBIツールを使えば、種々のデータを組み合わせた分析が可能になります。売り上げの例でいえば、「売上高だけではなく、値引き率と組み合わせてみよう」「地域ごとのデータを組み合わせてみよう」「売れてない商品を追ってみよう」などと、データの種類を切り替えられます。データ分析で扱う項目が増えれば新たなインサイト(洞察)が得られる可能性は高まります。

 ちなみに、データ項目を増やしながら分析していくアプローチは「探索的データ分析」とも呼びます。BIツールを選択する際には、探索的データ分析が容易なツールを選ぶことがお薦めです。

 分析に便利なツールは多々あります。ですが、それを扱うのは人間です。データサイエンティストのように高度な分析業務を担当するのでなければ、数式の扱いを極める必要はありません。ですが、本連載で解説してきた基礎的な用語や概念は基礎知識として持っておく必要があります。データ分析をスムーズに進められないだけでなく、正しいインサイトを導き出せない可能性も高まります。

 例えば第5回の「データを使う力」で取り上げた因果関係と相関関係の違いは理解できているでしょうか。原因と結果の関係があるかないかの違いですが、データ分析においては“みせかけの相関関係”が出てきてしまうことがあります。両者を混同していては、誤ったインサイトを導き出し、ビジネスで道を踏み外しかねません。

 最近では、BIツールにもAIが組み込まれ「AutoML(自動化された機械学習)」など、予測モデルを自動で生成できる技術も登場してきています。しかし、AutoMLを使っても、分析の基礎知識がなければ間違ったモデルが生成されても気づけないかもしれません。

スモールスタートから実践を繰り返しながらの成長を

 これからのビジネス推進において、データ分析は不可欠です。より効果的な成果を上げるためには、“正しいデータ分析”を誰もが実行できるように、企業/組織のデータリテラシーを高め、文化としての定着を図る必要があります。

 そのためには、スモールスタートでも構いません。身近なところからデータ分析を始めてみましょう。そして社内で互いに教えたり刺激を与えたりしながら、データリテラシー文化の機運を高めていきましょう。

 オリンパスの荻本氏は企業/組織への浸透に対し「高度な分析でなくても、従来の集計作業が楽になるといったところから始めるのでも良いと思う。BIツールを使えば1カ月の集計が数日で終わることもある。役に立てば喜んでもらえ、通常業務が短縮できれば、これまで時間切れでできなかった分析に取り組めるようになる。データもツールもあるのだから、データリテラシーを高め、データ分析ノウハウの底上げを図ることが重要だ」としています。

 小さな実践でも、それを繰り返せば次第に成長し、高度化していきます。ビジネスにつなげる発想力も磨かれていくことでしょう。本連載が一助になり、それぞれの企業でデータリテラシー文化が花開き、ビジネスの発展につながることを願っています。

 なお本連載は、データ活用のためのオンライン学習プラットフォーム「データリテラシープロジェクト」が提供する動画コンテンツを参考に構成しています。動画も併せてご活用ください。

吉田 一貫(よしだ・いっかん)

クリックテック・ジャパン マーケティング本部長。東京大学教養学部イギリス科卒業、英ロンドン大学ゴールドスミスにて修士課程修了。ジャストシステムにてワープロソフト「一太郎」等の開発に関わったのち、Apple、シマンテック、ビジネスオブジェクツでプロダクトマーケティング、Evernote、Cloudera等でPRとマーケティングを統括。2019年6月より現職。