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  • DX時代に不可欠なデータリテラシー入門

データを論じる力を高める=組織にリテラシーを定着させる【第7回】

今井 浩(クリックテック・ジャパン カントリーマネージャー)
2020年11月30日

データ分析に取り組むに当たり、誰もが求められるデータリテラシー。これまでデータリテラシーを構成する4つの力を高めるのに必要な基本的な知識を解説してきました。今回は4つ目の力である「データを論じる力」を説明します。これは個人が身に付ける力というよりも、組織内でデータに基づき双方向で議論できるための社風や文化の形成に重点があります。

 データリテラシーの4つの力のうち、これまでは「読む」「使う」「分析する」という3つの力について、データを扱うための統計学的な基礎知識を中心に解説してきました。4つ目の力である「データを論じる」は、これら3つの力を駆使して、データから得られた新たな知見を議論するための力になります。

 しかし、この「データを論じる」という力は、これまでの個人が身に付けるだけでは不十分です。一方的に知見を投げかけるだけではビジネスの成功にはつながらないからです。データリテラシーを高め、それのビジネスにつなげるためには、データリテラシーの文化を企業や組織に吹き込み、定着を図ることが重要です。

企業にデータリテラシーの文化を取り入れる

 文化とは、「行動や生活様式の総体、あるいは人間が自然に手を加えて形成してきた物心、両面の成果」のことです。具体例には、言語や、風俗、道徳、宗教などがあります。文化(culture)の語源は、ラテン語で「耕す」を意味する「colere」です。

 データリテラシーの基本的な要素は、第1回で説明したようにデータを「読む」「使う」「分析する」「論じる」の4つです。これに「耕す」を語源に持つ「文化」を加えることで、データリテラシーの要素であるスキルを習得・開発し、改善していくという努力を積み重ね、ステップアップしていくことが可能になるのです。

 ここで誤解のないように注意すべきことがあります。企業にデータリテラシー文化を吹き込むといっても、それは企業の文化をデータリテラシーで置き換えたり、変容させたりすることではありません。企業や組織には、それぞれの存在意義やミッションを通じて培われた文化がすでにあります。データリテラシーを吹き込むということは、「既存の文化に新しい要素を取り入れる」ということです。

 企業や組織に、さまざまな役割があるように、データリテラシーの文化においても、さまざまな特徴や役割があります。メンバーのそれぞれが役割や任務を果たせるように学習意欲を持ち、スキルを発展させていく必要があります。

データリテラシーの文化を発展させる6つの要素

 データリテラシーの文化には、重要な要素が6つあります。「流ちょうさ」「分析スキル」「統計学的方法論」「ビジュアライゼーション」「学習」「メンタリング」です。なお、これらの順番には意味はありません。それぞれの内容をみていきましょう。

流ちょうさ

 コミュニケーションスキルに似ています。言語力で語彙が必要なように、データの理解には専門用語や基礎知識が必要です。データの利用が進んだ現場では、分析の語彙、たとえば「ヒストグラム」「ボックスプロット」「中央値」「標準偏差」「管理限界」といった用語が会話で飛び交うようになるからです。

 これら専門用語が理解できないと、会話についていくことすら困難になるでしょう。専門用語の知識が増えれば、データの利用や分析についての会話が流ちょうに理解できるようになります。

分析スキル

 データを分析し、結果とインサイト(洞察)を導き出すためのスキルです。分析的な思考は、課題とプロジェクトを細分化し、段階的にプロセスを導き出し、インテリジェントなソリューションを実現していきます。これはデータサイエンティストだけが持つべきものではなく、組織内の多くのメンバーが持つべき要素です。

統計学的方法論

 分析結果を得るためには統計学的な方法論が必要となります。これは分析スキルとは似て非なるものです。統計学的スキルは分析スキルの一要素であり、データサイエンティストが扱う「予測アルゴリズム」「機械学習」「データマイニング」「仮説テスト」などと関連します。データリテラシーのスキルではないものの、データリテラシー文化に重要な要素であることは間違いありません。

ビジュアライゼーション

 収集しただけのデータは大抵が数字の羅列です。数字の並びを見るだけで、インサイトを導き出すのはどんな熟練者でも困難です。データのビジュアライゼーション(視覚化)はデータを簡素化し、データの傾向やパターンなどのインサイトを把握しやすくなります。

 多くの人がデータビジュアライゼーションのスキルを強化すれば、組織がデータを解釈する能力が高まってきます。

学習

 データリテラシー文化における根本的な要素です。企業や組織が存続する限り学習を続ける必要があります。レベルや役割に応じて学習すべき領域があり、データリテラシーは常に磨き続けなければならないからです。誰もが学習への意欲を持ち続けることが大事です。学習を続けることは組織の成功に寄与していきます。

メンタリング

 企業や組織がデータリテラシー文化を正しく構築するための重要な方法であり、成功のための主要な要素でもあります。多くの組織では、メンタリングのプログラムが定着しているかと思いますが、メンタリングはデータリテラシー文化においても重要な要素です。

 高いスキルを持つ人にも、さらなる成長を促す必要がありますし、成長した人が後進を導くことで良いサイクルが生まれます。