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  • DX時代に不可欠なデータリテラシー入門

データリテラシー文化を持った企業のあるべき姿【第8回】

オリンパスにおけるビジネスへのデータ分析活用への道

吉田 一貫(クリックテック・ジャパン マーケティング本部長)
2020年12月21日

データ分析に取り組むに当たり、誰もが求められるデータリテラシー。これまで、データリテラシーの定義である「データを読み、使い、分析し、論じる能力」の4つの力について解説してきました。データリテラシーが高まった企業/組織とは、どのような姿になるのでしょうか。その一例として、データリテラシー文化の醸成に取り組んでいるオリンパスの取り組みを紹介します。

 オリンパスは「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」を掲げ、内視鏡などの医療機器、顕微鏡、カメラなどを製造・販売しています。

 これら事業において、データやAI(人工知能)の活用に積極的に取り組んでいます。例えば内視鏡では、病変の検出や診断のための補助情報の提供にAIを活用。カメラでは、鉄道や自動車など特定の被写体に対するオートフォーカス機能にAIを採り入れています。

専門家への依頼が必要なOLAPをBIツールに置換

 データ活用がビジネスにおける重要課題として注目され、企業全体でデータを活用しようという意欲が高まり、データリテラシー文化が広がりつつあります。その一例に、事業部のある部門におけるBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの導入・活用があります。

 その部門では、これまでデータ分析用にOLAP(オンライン分析処理)ツールを導入していました。ただ、扱うデータや分析項目を少し変更するだけでも専門のエンジニアに修正を依頼しなければならず、時間とコストがかかるのが課題でした。これをBIツールに置き換えたのです。

 置き換えに際しては、オリンパスのIT部門でデータ活用推進を担当する荻本 正浩 氏が、「もっと安く、部門担当者自身が使えるBIツールはないか」と模索し、選定しました(写真1)。利用部門には、ツールの紹介だけでなく、ハンズオンやデモ、他社事例の紹介などにより理解を深めてもらい、浸透を図りました。その後は、他部門にもBIツールの利用が拡大しています。

写真1:オリンパスのIT部門でデータ活用推進を担当する荻本 正浩 氏

 荻本氏は、「BIツールは、利用してきたOLAPシステムに比べると、担当者自身が、データの取り込みから分析、可視化までを容易に実行できる。迅速な分析が可能になったうえ、運用コストも下がった」と現状を話します。

「プロトタイプ・ファースト・アプローチ」で浸透を図る

 現在の荻本氏は、社内でデータ分析のアドバイザーやエバンジェリストといった立場で行動しています。荻本氏自身は心理学を専攻し、因子分析など統計的手法に関するデータリテラシーを持っていました。

 現場への浸透に向けて荻本氏が意識して実践しているのが「プロトタイプ・ファースト・アプローチ」です。現場から「こういう情報があるが、どう扱えばよいか?」といった相談が寄せられた際に、その実現方法をアドバイスするだけでなく、実データを使ったプロトタイプ(デモ)を作り、「実現したいことは、こういうことでは?」と担当者と一緒に確認していきます。「技術部門ではないビジネス部門だと「データ分析に詳しいとは限らない」(荻本氏)ためです。

 並行してBIツールを使ったデータ分析を学ぶ機会として、オンデマンドの自習教材や半日程度のハンズオンのワークショップを用意しています。ワークショップではBIツールを実際に操作しながら、サンプルデータや自部門の業務で使うデータを使って簡単な分析を試みます。2019年からは部門の新人研修にも採り入れています。

 荻本氏は、「正しい知識を持ち『あることを知りたい場合、どういうデータを用いて、どんな分析手法を使えばよいか?』『分析時には、こんな誤解が起こり得る』といったことが理解できていれば、ツールは正しく使える。最近はツールの支援機能も高まっているだけに、自らの力でデータを分析し、データを基に判断し、行動できるようになれば、ビジネスにおけるデータ活用が回り始める」と指摘します。

 さらにオリンパスでは2020年度、データ分析や活用のための社内コミュニティが発足しました。研究開発部門が中心となり、ビジネス部門を含めて約200人が参加します。オンラインでの情報交換や互助に加え、オンライン勉強会を月2回のペースで実施しています。

 「研究開発部門では、予想以上にデータ分析に携わっている人が多く、データリテラシー文化が着々と育まれている。今後はビジネス部門にもデータリテラシーを広げ、データ分析で得られた結果や知見を製品/サービスなどのビジネスにいかに効果的に組み込んでいくかに取り組みたい」と荻本氏は力を込めます。